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「すみません。結局一人に任せてしまって」
ラファエルとギルベルトが去った後、ジークは再び庭の手入れに戻った。
それから30分ほどが過ぎた頃、ようやくリュシーがそこに加わる。
「いえ、全然大丈夫です。リュシーさんの方の用事は終わったんですか?」
「あぁ、それは……」
「終わってなければ、そちらを優先して下さいね。俺、一人でも大丈夫ですから」
「いえ……とりあえず、ここを片付けてからで」
言うなりリュシーは、早速ジークが作っていたいくつかの雑草の山を一カ所に集め始める。
「あ……顔、洗ってきます?」
「え? ……あ、そんな酷いですか?」
「まぁ、それなりに……。俺なら洗ってきますね」
「……じゃあ、洗ってきます」
途中、ギルベルトにも「ひでぇ顔してんな」とは言われたのだ。それでもまぁ、そこまでひどいとは思っていなかったし、全て終わらせた後でもいいかと思っていた。
だがリュシーにまであんなふうに促されるとさすがに気になってくる。
ジークは足早に裏口から中に入ると、手洗い場に取り付けられていた鏡を覗き込んだ。
「……わ、ほんとだ……」
リュシーが言うのも無理はない。
いつのまにか、額も頬も、鼻の頭も泥だらけになっていた。知らないうちに手で擦ったりしていたのかもしれない。
ジークはばしゃばしゃと顔を洗い、持っていた手巾で水気を拭った。
そうして、改めて鏡の中の自分を見つめる。
「……あ」
そこで改めて思い至った。
体格の割に、ジークは体毛が薄い方だ。ひげもほとんど生えなかったりする。
普通の人間でもそういうタイプはいるからそこまで気にしていなかったが、もしかしたらそれも淫魔の――雌型の血が関係していたのだろうか。
「……にしても、こんな俺に……」
顔つきだって、多少整っていると言われることはあるものの、平凡といえば平凡だ。
風貌も表情も、特に女性的な要素があるわけではないし、男性的な色気だって、恐らくは乏しい方……。
そんなジークに、同僚も、ギルベルトも、……そしてアンリも性的な目を向けてきた。
アンリの場合は治療ということもあるので、少し違うかもしれないけれど、それでも結局最後までジークを抱いたのは今のところアンリだけ……。しかも一度だけでなく、多分もう、ジーク自身わからないくらいの回数を重ねている。
時々まだ夢ではないかと思ってしまう。
自分に起こっていることが、信じられなくなる。
現状が嘘みたいに落ち着いてるからよけいにそう思ってしまうのかもしれない。
「なんか、申し訳ないな」
きっとみんな、好きで自分に手を出しているわけではないだろうに。
ため息混じりに呟くと、先刻、去り際に見せたラファエルとギルベルトの様子が頭を過ぎった。
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