20.束の間の

22/26

986人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
 一方的にキスしてしまったことをジークが詫びると、二人は一瞬きょとんとした顔をした。  ややして、ラファエルが「あぁ」と手を打つと、それに釣られたようにギルベルトの視線がラファエルに向いた。 「事情はわかりましたから。どうかお気になさらず」  ラファエルは改めてジークに頭を上げるよう促すと、にこやかに破顔する。  胡乱げなギルベルトの視線を感じながら、けれどもそれにはあえて気づかないふりで言葉を継いだ。 「申し訳ないなんて思わなくて大丈夫ですよ。僕も悪い気はしなかったので」 「……は……?」  ラファエルの言いように、ギルベルトは無意識に反応していた。  ジークはそれには気がつかず、ラファエルは気付いたものの、やはり意図的に取り合わない。 「で、でも……」 「というか、こちらこそ相手が僕で申し訳なかったです」  ギルベルトの方は一切見ることなく、ラファエルはおずおずと顔を上げたジークに微笑みかける。 「そ、そんな……」 「はい。だからお互い様ということで。この話はここで終わりにしましょう」 「……はい。じゃあお言葉に甘えて」  にこりと笑みを深めながらまっすぐに見つめられ、ジークは微かに頬を染めつつも、再度ぺこりと頭を下げた。 「じゃあ、ギル。行きましょうか」 「は? 何で当たり前みたいに一緒に行くことになってんだよ」 「まぁ、いいじゃないですか」  ラファエルは最後にジークの肩に優しく触れて、それからようやくギルベルトに目を向けた。釣られてジークもそちらを見遣ると、ギルベルトはどこか釈然としないように口を尖らせていた。 「ギ、ギル、さん……?」 「呼び捨てにしろって言っただろうが」  不思議に思ったジークが呼びかけると、そこはさっきと同様に指摘された。  ……自分の思い違いだろうか。  でも、その表情はやはり先ほどまでとは質が違うように見える。  思ったものの、すぐにくるりと背を向けられてしまえば、それ以上推察することもできなくなる。しかもギルベルトは、そのまま肩越しに片手を挙げると、「じゃあな」とだけ残して、さっさと歩き出してしまった。  「あ……」と声を漏らしたジークの横で、その背をちらりと一瞥し、ラファエルが小さく苦笑する。 「大丈夫ですよ。……では、僕もこれで」 「あ、はい……すみません。お気を付けて」  ジークははっとしたように頷き、まもなく踵を返したラファエルと、その奥に見えるギルベルトの姿が見えなくなるまで、しばらくその場に佇んでいた。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

986人が本棚に入れています
本棚に追加