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一方的にキスしてしまったことをジークが詫びると、二人は一瞬きょとんとした顔をした。
ややして、ラファエルが「あぁ」と手を打つと、それに釣られたようにギルベルトの視線がラファエルに向いた。
「事情はわかりましたから。どうかお気になさらず」
ラファエルは改めてジークに頭を上げるよう促すと、にこやかに破顔する。
胡乱げなギルベルトの視線を感じながら、けれどもそれにはあえて気づかないふりで言葉を継いだ。
「申し訳ないなんて思わなくて大丈夫ですよ。僕も悪い気はしなかったので」
「……は……?」
ラファエルの言いように、ギルベルトは無意識に反応していた。
ジークはそれには気がつかず、ラファエルは気付いたものの、やはり意図的に取り合わない。
「で、でも……」
「というか、こちらこそ相手が僕で申し訳なかったです」
ギルベルトの方は一切見ることなく、ラファエルはおずおずと顔を上げたジークに微笑みかける。
「そ、そんな……」
「はい。だからお互い様ということで。この話はここで終わりにしましょう」
「……はい。じゃあお言葉に甘えて」
にこりと笑みを深めながらまっすぐに見つめられ、ジークは微かに頬を染めつつも、再度ぺこりと頭を下げた。
「じゃあ、ギル。行きましょうか」
「は? 何で当たり前みたいに一緒に行くことになってんだよ」
「まぁ、いいじゃないですか」
ラファエルは最後にジークの肩に優しく触れて、それからようやくギルベルトに目を向けた。釣られてジークもそちらを見遣ると、ギルベルトはどこか釈然としないように口を尖らせていた。
「ギ、ギル、さん……?」
「呼び捨てにしろって言っただろうが」
不思議に思ったジークが呼びかけると、そこはさっきと同様に指摘された。
……自分の思い違いだろうか。
でも、その表情はやはり先ほどまでとは質が違うように見える。
思ったものの、すぐにくるりと背を向けられてしまえば、それ以上推察することもできなくなる。しかもギルベルトは、そのまま肩越しに片手を挙げると、「じゃあな」とだけ残して、さっさと歩き出してしまった。
「あ……」と声を漏らしたジークの横で、その背をちらりと一瞥し、ラファエルが小さく苦笑する。
「大丈夫ですよ。……では、僕もこれで」
「あ、はい……すみません。お気を付けて」
ジークははっとしたように頷き、まもなく踵を返したラファエルと、その奥に見えるギルベルトの姿が見えなくなるまで、しばらくその場に佇んでいた。
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