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――そう、そんなふうに、ラファエルもギルベルトも、あくまでも普通に接してくれたのだ。
だけど、それだってきっと、自分とのことをなかったことにしたかったからに違いない。
思えばやはり申し訳なく感じてしまう。
……なかったことにして貰えるのは正直助かる。
助かるけど……。
それに甘えてばかりではいけないな、と、ジークは自分の頬をぱん! と一度両手で叩き、気持ちも新たに背筋を伸ばした。
* * *
午前がだめなら、午後はどうだろう。
昼食の後、もしかしたら話せる時間があるだろうかと考えていたら、今度はカヤがやってきた。
ジークの魔法の修行は来週だから、今日はアンリに用があっての来訪だろう。
やはり今日中に話を聞くのは無理そうだ。
半ば諦めたジークは、午前中にできなかった屋内の掃除をすることにした。
屋外の片付けが終わり、昼食を済ませた後、リュシーは再び所用で出かけてしまったので、ジークはジークで自分にできることを見つけるしかない。
ひとまず魔法の勉強は後に回して、ジークはそれぞれの部屋と廊下の床掃除に取りかかった。
* *
「依頼されてた材料はアトリエに置いといたよ。あと、追加のこれな」
ダイニングテーブルの上には、食後にリュシーが用意しておいたハーブティーのポットが乗っている。
それを手に取り、手ずから自分のカップに中身を注いだ後、カヤはポケットから取り出した小瓶をアンリへと差し出した。中にはくすんだ青色をした液体が入っていた。
「思ったより早かったな」
「いや、思ったより大変だったよ。やっぱり青い薔薇は扱いが難しいな」
「それでも私が精製するよりはずっと早い」
そしておそらく質もいい。
カヤに初めて青い薔薇を提供してもらって以来、アンリは何度か追加を依頼していたのだが、青い薔薇の管理はカヤ自身がしているわけではないのと、もともと出荷用に育てているものでもないため、なかなか定期的な入手には結びつかないでいた。
そこで最初からカヤに精製したものを頼むことにしたのだ。
先方のアトリウム内にカヤの魔法道具を置かせてもらい、譲渡するに満たない端も全てそれに利用させてもらう。
そうすれば、少なくともいつ量が揃うともしれない機会を待つより、入手率はあがる。
それだけ値は張るけれど、例の媚薬を作ればすぐに元は取れるので問題はない。
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