20.束の間の

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(あれ? 今俺、褒められた?)  アンリにしては珍しい。  そんな反応に、カヤは思わずへらりと笑ってしまう。  するとすかさず「気持ち悪い」という目で見られたけれど、それはいつものことなので気にしない。 「まぁ、青薔薇の(それ)はまた用意でき次第持ってくるよ」  カヤはにこにこと妙に嬉しそうな笑顔のまま、アンリの向かいの椅子に座った。 「あ、そうそう。あとあれ、ラファエルから……」 「ラファエル? あれ?」 「うん、さっき店に来て、今日販売の予定があるなら届けて欲しいって頼まれて……って、アトリエ(向こう)に一緒に置いてきちゃったな。ちょっと待ってて」  言うなり、カヤは再び席を立った。  そのままぱたぱたと部屋を出て行くと、まもなく戻ってきたその手の中には、取っ手のついたバスケット。かけられていた布をめくると、たちまち部屋に香ばしいバターの香りが広がった。  そこに盛られていたのは、午前中、ラファエルがギルベルトに与えてしまった焼き菓子の類いだった。 「今日はちょうどそのつもりだったし、もともとアンリのとこには行く予定だったから、じゃあってことで、持ってきた」 「そうか」  結局、午前中に出していたバスケットの中身は、ほとんどギルベルトが食べてしまったため、アンリも少々物足りないと思っていたところだった。  とは言え、追い出し方が追い出し方だったこともあり、当てにならないとも思っていたのだが――なるほど、アンリが昔から知るラファエル(あの男)の性格は存外変わっていなかったらしい。  ラファエルはあれでも一応生粋の天使だ。基本的には誰にでも優しく誠実で、頼りになると評判の男でもある。  その実嗜虐趣味があったりと裏の顔はあるものの、それだって理由もなく表に出してくることはない。要は意外ときっちりしているところもあるのだ。  ……まぁ、ギルベルトのこととなると、若干……いやだいぶおかしくなるようだが。 「――あ、で、ちょっと話があるんだけど」 「話?」 「うん」  カヤはバスケットをポットの横に置き、目の前のハーブティーをひと口飲んでから頷いた。
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