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(あれ? 今俺、褒められた?)
アンリにしては珍しい。
そんな反応に、カヤは思わずへらりと笑ってしまう。
するとすかさず「気持ち悪い」という目で見られたけれど、それはいつものことなので気にしない。
「まぁ、青薔薇のはまた用意でき次第持ってくるよ」
カヤはにこにこと妙に嬉しそうな笑顔のまま、アンリの向かいの椅子に座った。
「あ、そうそう。あとあれ、ラファエルから……」
「ラファエル? あれ?」
「うん、さっき店に来て、今日販売の予定があるなら届けて欲しいって頼まれて……って、アトリエに一緒に置いてきちゃったな。ちょっと待ってて」
言うなり、カヤは再び席を立った。
そのままぱたぱたと部屋を出て行くと、まもなく戻ってきたその手の中には、取っ手のついたバスケット。かけられていた布をめくると、たちまち部屋に香ばしいバターの香りが広がった。
そこに盛られていたのは、午前中、ラファエルがギルベルトに与えてしまった焼き菓子の類いだった。
「今日はちょうどそのつもりだったし、もともとアンリのとこには行く予定だったから、じゃあってことで、持ってきた」
「そうか」
結局、午前中に出していたバスケットの中身は、ほとんどギルベルトが食べてしまったため、アンリも少々物足りないと思っていたところだった。
とは言え、追い出し方が追い出し方だったこともあり、当てにならないとも思っていたのだが――なるほど、アンリが昔から知るラファエルの性格は存外変わっていなかったらしい。
ラファエルはあれでも一応生粋の天使だ。基本的には誰にでも優しく誠実で、頼りになると評判の男でもある。
その実嗜虐趣味があったりと裏の顔はあるものの、それだって理由もなく表に出してくることはない。要は意外ときっちりしているところもあるのだ。
……まぁ、ギルベルトのこととなると、若干……いやだいぶおかしくなるようだが。
「――あ、で、ちょっと話があるんだけど」
「話?」
「うん」
カヤはバスケットをポットの横に置き、目の前のハーブティーをひと口飲んでから頷いた。
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