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目を開けて顔を上げると、思いの外近くにロイの顔があり、抗う間もなく唇を重ねられた。
「っ……ん……!」
片手で肩を掴まれたまま、後ろ髪を引くようにして顔を上向けられ、噛みつくみたいに吐息ごと塞がれる。
目を瞠り、とっさに相手の胸を叩いたけれど、ロイの手は緩まない。
抗議しようと口を開けば、待っていたように舌先が滑り込んできた。
「ん……ぅ、やめっ……んん……っ」
どうにか声を上げても聞いてはくれない。
顔を背けようにも大きな手のひらに頭を固定されていてそれもできない。
ただいいように口内を蹂躙されて、リュシーの双眸に生理的な涙が浮かぶ。
相手はロイだ。アンリじゃない。
これは自分から受け入れている行為じゃない。
なのに意に反して力が抜けていく。背筋を甘い痺れが競り上がってくるような感覚がする。
……これも全てアンリの躾のせいなのか。
「……悪い」
「わ、るいと思うなら、……」
口付けが解けると、リュシーの上体がふらりと傾く。
ロイはそれを当たり前のように支え、そのまま胸に引き寄せるようにしてその華奢な身体を抱き締めた。
(……何なんだよ)
思いながらも、リュシーはしばらしくロイにされるままになっていた。
身体に力が入らなかったこともある。けれども、そうしてただ無言で抱き締めてくるロイの鼓動を、もう少し聞いていたいと思ったからでもあった。
ロイの心臓の音は、思ったよりも早かった。
思ったりよりも大きく感じられた。
……それが少し可愛いと思った。
【閑話END】
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