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短い秋も半ばが過ぎ、気温も随分下がってきた頃、ジークは朝食後のティータイムで思い切って切り出してみた。
「あの、俺……そろそろ騎士寮に戻れないでしょうか」
正面に座っていたアンリは、特に動じることもなく口許に寄せていたカップを静かに傾ける。ジークの方を見ることもせず、ややしてそれをソーサーに戻すと、さほどの興味も無いように小さく息を吐く。
その様子にかえって緊張が増して、ジークは無意識に背筋を伸ばした。
服用する薬はしばらく変わっていない。
そしてその薬を飲むようになってから、極めて平穏な日々が送れている。
そう思っていただけに、ジークはその薬さえ処方してもらえれば、以前のような生活に戻れるのではないかと考えていた。
「戻ってどうする」
「どうするって……俺は元々立派な騎士になりたくて……」
「寮でまた騒ぎを起こすつもりか? お前はまだ自分を制御できないだろう」
「それは……その、アンリさんの薬で」
「私の薬をお前の給金ごときで何とかできると思っているのか」
「えっ……」
「ここにいればお前は被験体だからな。それでもサシャから受け取っているものがなければ足りないくらいだ」
「被験体……」
そもそもが正式な儀式による影響ということもあり、一定の補助が出ているのはジークも知っていた。だが、その詳細な内容までは把握していなかった。
……いや、正確にはサシャも被験体として差し出したつもりはなく、アンリがそういう認識であることは知らないのだ。
ただ、どのみちアンリに丸投げした状態には違いなく、定期的な報告はちゃんと受けているため特に口出しするようなこともしてこない。
そんな実情を今、ジークは改めて突き付けられた。
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