♥22.こんなことって

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「ん……!」  表面が触れてしまえば、あとは転がり落ちるようだった。  ジークはカヤの顎に手を添えたまま、吐息ごと奪うように口付けた。 「んんっ、ん……!」  重ねられた唇に息を飲む。吹き抜けた風が、カヤの長い髪を靡かせた。  遅れて状況を理解したカヤは目を瞠り、とっさにその肩を押し返そうと力を込めた。けれども、体勢のせいだけでなく、仮にも騎士団の一員であるジークの方が力は上だ。思いの外びくともしない相手に、カヤは反射的に手のひらへと光を集める。  魔法にばかり頼ることはしたくないと思いながら、それでもこのまま流されるのはジークにとっても良いことにはならないと判断したからだ。 「ジー、ク……!」  相手を傷付ける可能性を考えると、直接的な攻撃魔法は使えない。それなら、相手へとかかる重力を減らすか、どちらかをこの場から転移させるか――。 「!」  しかし、そのどちらを試す間もなく、カヤの手から魔法が消える。ジークへと触れている場所からばちっと火花のようなものが散って、かと思うとそこに集束していた光も熱も瞬く間に霧散したのだ。 「え……っ」  何が起こった?  ――まさか、相殺された?  カヤは思わず動きを止める。  そもそもカヤの魔法力は桁違いだ。この世に残る純血の魔法使いはもう数えるほどしか残っていない。そのうちの貴重な一人であるカヤの魔法が、どういうわけか掻き消されていた。 「ん……、おいし……」  状況の把握に気をとられていたカヤの唇を、ジークが舐める。カヤははっとして再度ジークの肩を掴む手に力を入れた。 「ま、待って、ジーク……!」 「ん……?」  ジークはゆっくり頭を浮かせると、戸惑うカヤを見下ろし、婉然と微笑んだ。かと思うと顎先を捉えていた手が位置を変え、身動ぐ首元を撫で下ろす。焦らすように、知らしめるように線を描くその動きに、カヤの喉奥で小さな音が鳴った。
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