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* *
「聞こえんな」
アンリは片手間に眺めていた手鏡から視線を外す。専用の台座に立てかけられたその鏡面には件の湖畔の映像が映されたままだった。
カヤの予想通り、アンリはその状況を把握していた。
そうかといって助けに行くこともリュシーを急がせることもせず、アンリはただいつも通りに自身のアトリエで魔法薬の精製を続ける。
手の中にある試験管を揺らしながら、時折そこに片手を翳し、薬液の変化に注視する。今回のそれは新薬で、試供品だと言って先刻カヤから受け取ったばかりの材料を少しでも早く試したかったのもあった。
……まぁ、もし手が空いていたとしても結果は変わらなかったかもしれないが。
リュシーはリュシーで、指定の時間までニ時間もあるならと近くの商店まで買い出しに出ている。
通りがかりの人に助けを求めようにも、元々魔法の修練場所に選んだくらいだ、普段から人通りを期待できるような場所でもない。……いや、そもそも事情が事情なだけに、誰でもいいから、というわけにもいかないのだ。
* *
(誰も来ない……!)
半ば蒼白となりつつ、カヤはアンリの家の方角へと向けていた視線を一旦伏せた。
色気も何もない被るタイプの法衣一枚しか身に着けていないカヤは、前が開かないせいでもどかしげに首筋ばかりに舌を這わされていた。
「ジーク、ほら、そろそろやめ……、っあ!」
それでも布越しの胸元に添えられた指は絶えず突起を愛でており、ますます愉悦を拾い始めたカヤの身体は火照るばかりで、
「先生、可愛いです……」
「や、やめ、ジーク……!」
声は上擦り、下腹部へと灯った熱も煽られるまま雫まで滲ませる始末だった。
やがてジークの手が胸元から下方へと降りていく。せめてもと身動ぐ腰をゆっくり撫でつけ、次には黒い布地を持ち上げるそこに触れる。
カヤの背筋が、ひくんと跳ねた。
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