♥23.月夜の晩に

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「私は血をもらえたらそれで良かったんだがね。後はその礼として、君を気持ち良くさせてあげられたらと……」    そう思っていたのだけれど。と、どこか自分に言いわけするように呟きながら、ノエルはジークの服に手をかける。  胸元から晒されていく肌はしっとりと汗ばんでいて、触れれば吸い付くようなそこから伝わる体温は高い。 「ん、ん……っ」  指先が胸の先に近づくとジークの身体が期待に震え、それだけで下腹部から雫があふれる。ジークは乞うように身を捩らせ、とろんと緩んだ瞳を細めて艶やかに微笑んだ。長い髪へと差し入れられた指が、緩やかにノエルのうなじを撫でる。 「……悪い子だね」  ノエルは密やかに息を吐き、再び首筋へと舌を這わせた。  傷口からの流血はすでに止まっていた。ノエルの唾液は止血剤としても作用する。けれども、ノエルは誘われるようにまた歯列を開く。瞳の赤みが増して、僅かに牙が伸びていた。 「い……っ、あ!」  ノエルの歯先が皮膚に食い込む。ぷつりと血が溢れるのと同時に、焦らすようだった指が胸の先に触れた。 「あぁ……っ、ん……!」  色付く先端をそっと撫で付け、次には摘まみ上げられる。焦らされた分拾う愉悦は鮮明で、触れられるたびにびくびくと上体が跳ねる。いっそう張り詰めた屹立が服の下で脈打ち、早く欲しいと胎内(なか)が疼いて止まらなくなる。 「ノエ、ル……」  ジークがノエルの名を口にする。その声は洗脳でもするかのように響いて、ノエルの思考すら白く塗り潰そうとする。それ以外何も考えられなくしてやるとでもいうように、口内に広がる血液の味まで際立つような甘さに変わる。――そんな錯覚に陥りそうになる。 「……いいよ。私で良いなら、相手をしてあげよう」  ノエルは応えるように微笑んだ。ともすればジーク以上の色香を乗せて。  本当にこのまま進めて良いのかとか、これはジークの本意なのかとか、頭の片隅で思わないでもなかったが、そもそもノエルにとってジークは行きずりの獲物だったのだ。とりたてて高い貞操観念を持っているわけでもなければ、相手がそれを望むというなら、頑なに拒む理由も見つからなかった。
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