996人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうなの?」
カヤは思わず目を瞠る。
「それにしてはこの辺、しばらくページ続いてるけど……」
ぱちりと瞬き、紙面を指さすと、アンリはどこか皮肉めいた物言いで、「簡単に言えばな」と呟いた。
カヤは「なるほど」と頷き、再び紙面に目を戻す。
「……分かった。とりあえず全部読む」
そして先へと読み進めながら、片手間に会話を続けた。
「ていうか……アンリもそうってことだよな。そういう、衝動っていうか……」
「一応その血は入っているからな」
「そっか。そうだよな」
アンリにも淫魔の血が入っている。それはカヤも以前から知ってはいたのだが、いまだにその実感は乏しいままだった。カヤにとってアンリはあくまでも魔法使いとしての同胞であるためだろうか。実際にその特性を見たことがないのも大きいのかもしれない。
「……とは言え、私にはすでに耐性があるから、いまとなっては発情自体、あってないようなものだ」
「あ、そうなんだ」
発情……発情か。
カヤは反芻するように心の中で独りごちると、文字を辿っていた指でその項目を探した。「これか」と小さくこぼし、そのままさらさらと速読する。
「あぁ、この襲う襲うって書いてあるのは、主にこの〝発情中〟の時のことか」
そこには、〝淫魔には定期、または不定期に起こる発情期がある〟と書かれていた。定期の場合、概ね月に一度、3日〜7日程度続くことが多いらしい。
そして発情については、〝個人差はあるものの、基本的には生活に支障が出るほどの強い性衝動に駆られること〟と補足されていた。
個体によっては、衝動を完全に抑制することができ、耐性がつけば発情自体起こりにくくなることもあると書かれている。ただし、その割合は1%以下とか――。
(アンリはそこに入ってるってことか……)
さすがというか、なんというか。彼らしいと言えば彼らしい。だからこそ余計に淫魔としての印象がないのかもしれない。
カヤは感心するように頷くと、一旦視線を上げて、確かめるようにアンリの顔を見た。
最初のコメントを投稿しよう!