07.アンリとカヤ

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「けど、アンリにもあるにはあったんだよな? 発情期……」 「まぁ、もともと私は平均より少なかったがな」 「……ちなみにそういうときって、どうしてたんだ?」 「そんなものは手早く発散して終わりだ。相手に困ったこともない」 「……なるほど」  カヤはその内容を、きわめて真面目に咀嚼した。アンリはどこか調子が狂うとばかりに、あからさまな溜息をついた。 「……いいから先を読め。なんで私がそこまでお前に聞かせねばならん」 「えっ……はは。それはあれだよ。〝賢者さま〟の知識欲からくる興味っていうか。……いや、嘘。単なる好奇心かも」  思い出したようにカヤが笑うと、アンリはいっそう冷ややかな眼差しをカヤに向けた。  カヤは「ごめんごめん」と軽く謝ると、 「え……ええっと、どこまで読んだっけ……」  こぼしながら、再度本へと向き直った。  そして音読を再開する。 「大半は年齢と共にある程度は自制できるようになり、理解あるパートナーを得ることや、期間中、自ら外部との接触を断つことでやり過ごすことも可能に……」  読み上げた部分に、そっか、と内心ほっとする。けれども、次には「えっ」と口が開いた。 「……ただし、以下のような報告もある。きわめてまれな症例ではあるが、いったん発情すると、その欲求が満たされるまで半永久的に酩酊状態が続き――」  続けて読み上げながら、カヤはたじろぐようにわずかに身を引いた。 「……そんな場合もあるのか」 「そうだな」  当然のように答えたアンリに反して、カヤは珍しく神妙な顔をした。本からアンリに視線を移し、無意識に口元に手を当てて、 「それってさ、どうなるんだ? みんながみんなアンリみたいにすぐ誰か捕まえられるわけじゃないだろ? 相手がいなきゃ、いつまで経っても……」 「そうだな」 「そうだなって……」 「堪えきれなくなれば、後は本能に従うしかないだろうな。適当な相手が見つからなければ、その辺の誰かを襲う――もしくは襲われるかだ」 「襲われる?」 「そういうフェロモンが出る」  話がそこにまで及ぶと、さすがにカヤの背筋も冷えた。 (それ、多少っていう?)  知らず、こくりと喉が鳴る。
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