07.アンリとカヤ

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 本には〝きわめてまれな症例〟とあるが、アンリも知識としては知っていたようだ。……いや、この口ぶりからして、現にそういった相手に会ったことがあるのかもしれない。 「でもそんなことばっかしてたら……」 「ああ、どのみち命もどうなるかわからんな」  襲えば殺される可能性もあるし、襲われれば死ぬまで囲われてしまうこともある。それはそのレアなケースに限ったことではないが――。  アンリの示唆するところに、カヤは読んでいた場所を指先で押さえたまま、小さく息を呑んだ。 「だから淫魔の血は廃れたんだ。そこに書いてある以上に、発情状態の淫魔はやっかいだからな。平穏に過ごしたい者にとっては厄災以外の何物でもないだろう。……淘汰されても仕方ない」 「仕方ないって……」 「記録に残っているのはほんの一部だ。他にもいろいろな症例(パターン)がある」 「この記録……微妙ってこと?」 「淫魔の血を持たない者が書いたというだけのことだ。間違っているわけではない」  騙されやすかったり、思い込みの激しいところもあるカヤだ。過去には人に勧められるままに購入したいい加減な文献を、宝物のように読んでいたこともある。だが少なくとも目の前にあるこの書物は真っ当なものだった。 「どうせその血を引く者しか知らん記憶だ」  だからその内容自体に特に問題があるわけではない、とアンリは暗に告げた。 「あ……。それでここに、ある意味(いにしえ)血裔(けつえい)ってあるのか」  カヤは一通り目についた部分を読み終えると、背もたれに思い切り身体を預けるようにして力を抜いた。 「俺もまだまだだなぁ。一度読んだ本は全部暗記したと思ってたのに」 「単に読んでなかったんだろう。もしくはお前の理解を超えていたか」 「……それかも」  賢者だの生き字引だの言われるだけあって、これでもカヤはアンリよりも上級の魔法使いだったりする。  ランクで言えばサシャはAでアンリはS(現段階のジークはC〜D)。カヤはというと、SSSランク。それ以上上はない。  一見の頼りなさそうな印象に反して、知識はもとより、魔法使いとしての能力は他に類を見ないほどに高いのだ。  ――まぁ、そのわりに失敗することも少なくないのだが。
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