07.アンリとカヤ

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「それでどうするんだ? サシャの手紙には、〝うっかり淫魔の血まで目覚めさせてしまったみたいです。よろしくお願いします〟って書いてあったけど。だからってもう封印とかはできないんだろ?」 「…………そうだな」 「え?」  カヤは思わず瞬いた。  いま、妙な間があった気がする。 「でき……ないんだよな?」 「お前はどう思う。できると思うか? 生き字引」 「えっ……。あー……うーん。やったことはないけど……仮にできたとして……副作用が怖いかな。その種族だけに伝わる特別な方法(何か)があるとかなら分からないけど……」  カヤが首を捻ると、アンリは「だろうな」とばかりに息をついた。それからカップに手を伸ばし、残り僅かとなっていたハーブティを飲み干していく。時間が経ってはいたが、カヤの魔法のせいか中身はまだ十分温かかった。  それを見ていたカヤも思い出したように自分のカップを口に寄せる。 「えっと……じゃあまぁ、当分はその子のケアをするってことになるのかな? ケアと……あと、訓練、とか?」  ひとまず血の封印はない。  そう解釈したカヤは、改めて頭の中を整理する。発情、制御(コントロール)、耐性などの言葉を反芻し、これまでに見聞きした話を総括する。  託されたジークという青年は、予定外に目覚めさせられた淫魔の血の影響により、発情を迎える前から(アンリの言うところの)フェロモンの放出が止まらなくなった。  その対応を、サシャはアンリに頼んだのだ。同じ血を持ち、魔法使いとしての腕も確かなアンリに。 (……で、合ってるよな?)  サシャの手紙にも、発情したとかは書かれていなかったから、その点はまだ大丈夫なのだろう。だからきっと、応急処置とは言え、サシャにもできることがあったのだ。 (サシャにできてアンリにできないわけないだろうし……)  だからいま、その青年は(一時的とはいえ)アンリの魔法で落ち着いている。……が、この先どうなるかは分からない。  ……といったところだろう。  うん。とカヤは一人で頷くと、一息つくようにごくごくとハーブティを嚥下した。 「とりあえず……俺も祈ってるよ。その発情っていうのが、できれば当分来ないように」  それこそ、そのまれな症例にあたりませんように――なんて、それはさすがにありえないだろうけど。  得たばかりの知識を思い起こしながら、励ますように言うと、 「……発情か」  アンリはどこか考え込むように呟き、その一方で指先は目の前のスコーンを摘んでいた。 「あ、そうそう。まぁとりあえず、ほら、食べて食べて」  その姿に思わずカヤは破顔して、早速アンリのカップに新たなハーブティを注ぐ。  それから自身もスコーンをかじると、気が抜けたように本音を口にした。 「っていうか……アンリって本当に淫魔だったんだなぁ。今更だけど」 「本当に今更だな」
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