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(あの匂い……サシャの応急処置……で、森についてすぐに異変ってことは、もったのは半日くらいか)
タイムラグがあるというのに、映像は鮮明だった。音声こそついていないが、その代わりにリュシーが取ったメモが映っている。そこに時折ジークの様子が入ってくる。
ちなみにアンリは読唇術にも長けているので、それと合わせれば得られた情報は十分だった。タイムラグに関しても、一日ほどのずれであれば問題はないらしい。
(……倒れたところからのことは、何も覚えていない――)
リュシーが書き留めたメモを目で辿る。
自分がどうやってその熱を収めたのかもまるで知らない。
要するに、アンリに抱かれたことも一切記憶にはない――。
「…………」
まぁ概ね予想通りだと、アンリは小さく息をつく。それから手鏡に落としていた視線を一旦伏せ――ようとしたところで、
「……なんだ?」
鏡面に映っていたリュシーの手が、不意にびくりと震えて固まったのに気付いた。
手元のメモ用紙から、ゆっくりと視線が動いていく。天板の上に置かれたティーカップが倒れ、中身がこぼれていた。
やがてその目がとらえたのは、胸を掻き抱くようにして俯いた、苦しげなジークの姿だった。
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