いい人、辞めました。

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いい人、辞めました。

スマートフォンと財布とティッシュを持ち、気分転換にコンビニに出かけることにしました。 いい人を辞めた私は、一味違います。 落ちているゴミは無視するし、苦手な上司には挨拶しないし、成美に「充実したオタ活ができるのは親のおかげだろ!」と言うし、茶殻と水が減ったポットは気が付かないフリをするし、成美に「自分の仕事は自分でやれ!」と言うつもりです。とりあえず明日は有給を取ってやろうと思います。 あと、アプリの男はさっきブロックしました。アプリごと消しました。 ゴミは拾うどころか、捨ててやることにしました。 私は鼻をかんだティッシュを、アスファルトに向けて落とします。 そのまま前を見て歩き続けます。 でも、だんだん不安になってきてしまいました。 あのティッシュは土にかえるのでしょうか。それとも、親切な誰かが拾ってくれるのでしょうか。 私が鼻をかんだティッシュです。私の鼻水が付いています。誰かの手がそれに触れることを考えたら、いたたまれなくなってきました。 私は踵を返して走りました。 後ろを歩いていたお兄さんが「うわっ」と叫びましたが、気にしません。 私は、私が落としたゴミを拾いに戻らないといけないのです。 夜も遅かったので、ゴミは私が捨てたそのままの状態でした。通行人もいません。 ゆっくりとつまみ上げ、尻ポケットにねじ込みます。 なんとなくですが、神様に見られているような気がしました。 今ならいけるのではないかという期待が、むくむくと湧き上がってきました。 私はその場で立ち止まり、スマートフォンを取り出します。今日が終わるまで残り10分でした。 アプリを立ち上げ、石を買います。 躊躇いもなく1万円を選んでいました。 限定ガチャを選び、10連を回します。 願掛けのための連打。無意味なことは分かっていますが、やめられません。 「あっ……」 結果を見た私は言葉を失いました。 「カナタくん……」 涙が再び溢れてきます。 そこには、にっこり笑ってケーキを食べるカナタくんの姿。 「お誕生日、おめでとう」 声をつまらせながら、画面を見つめて言いました。 やっぱり神様は見てくれていたのです。 来年のカナタくんの誕生日には、もう少し早く出てきてもらえるように、もっと徳を積もうと誓いました。 私は溢れる涙を拭い、コンビニに向かいます。 カナタくんの誕生日ケーキを買うためです。 家に帰ったら、スマートフォンをテーブルに置き、カナタくんとケーキを食べるつもりです。 とっても楽しみです。 いい人になってよかったなと思いました。
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