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いい人、5日目
時刻は午後5時25分。あと5分で定時です。
そんな時に、成美ちゃんが私の席にやってきました。
「あのぅ、お願いがあるんですけど」
「何?」
首だけを動かして成美ちゃんを見ます。
目を逸らし、胸のあたりでしきりに手を組みかえています。
「実は今日、推しの誕生日で、友達と誕生日パーティーすることになってるんです。田端さん、代わりにデータ入力お願いできません?」
「推しの、誕生日パーティー?」
私は首をかたむけました。
「はいっ! 田端さんなら分かってくれますよね? 推しの誕生日がどれだけ大事か……!」
「うん、まぁね。うん」
「友達が、ステキなお店を予約してくれたんです。6時半からなんですけどここから遠くって。どうしても定時に帰らないといけないんです」
「へえ」
「ってことでお願いします!」
成美ちゃんはぺこりと頭を下げると、自分のデスクに向かいます。
「これだけですから」と言って持ってきた資料は、ざっと見た感じ、厚さ3センチはあるでしょうか。
その時チャイムの音が聞こえました。
成美ちゃんは私のデスクに資料を置くと、「それ、今日中の約束なんで、よろしくです。お先に失礼します!」と頭を下げます。
私もリアタイしたいドラマがあったんですけど。涙を流すのは心の中だけにしました。
なぜなら私はいい人だからです。
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