いい人、6日目

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いい人、6日目

朝7時30分。電話の着信音で起こされました。 誰からの電話なのかを見ないまま、通話を開始します。 「はい、もしもし」 「あの」 電話の主はそう言ったきり、黙りました。 耳からスマートフォンを一度離して、画面を確認します。 思わず落としてしまいそうになりました。 掛けてきたのは丸宮さんでした。 私は咳払いをして、精一杯緊張感のある声を出します。 「何かまずいことになりましたか?」 「いや。仕事の話じゃない。あー、でも仕事の話か?」 丸宮さんは言葉を濁します。 私はため息をつきたくなりましたが、我慢しました。 スピーカーホンに切り替えて、立ち上がります。歯ブラシを取りに行くつもりでした。 「僕と……て……ほしいんだ」 「はい?」 私は再びベッドに座り直します。 「だから、僕と、月曜の昼、話を聞いてほしいんだ」 接続詞と助詞がおかしくないですか? 「来週の月曜日ですか?」 「うん」 「仕事の話、ですよね?」 「……」 「昼じゃなきゃダメですか? 月曜なら午前中時間作れます」 「お昼、イタリアンレストラン予約した。キレイめの格好で来て。じゃあ」 一方的に話して、切ってしまいました。 私の休みの日と昼休みの時間を奪おうとするのはなぜですか、と聞き返すことはしませんでした。 なぜなら私はいい人だからです。
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