葵のミラノ赴任

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葵のミラノ赴任

今日も外は雨だ。6月も終わりに近づき、梅雨真っ盛りだ。ここは下北沢のアパート。私、田村陽葵(たむら ひまり)が、姉の(あおい)と一緒に住んでいる。2LDKの広々とした物件だ。 「陽葵、ちょっと話があるんだけど」 夕方になって、姉が唐突に言い出した。 「何、お姉ちゃん?」 「私、明後日から、ミラノ赴任だから」 えっ・・・そんなことをさらっとこともなげに。 「えっ!すごいじゃん。おめでとう」 「で、ここなんだけど。あなたにルームメートをあてがったの。私の親友で類友よ。きっと陽葵を守ってくれると思うわ」 「誰なの?」 「それは、会ってのお楽しみ。キーはもう渡してる」 もう!お姉ちゃんはいつもこうだ。私の意見を聞かず、次々と決めて行ってしまう。引き返せないところまで・・・。 「もう、お姉ちゃんったら、ちょっとは相談してよね、いつものことだけど。赴任だって、もっと前から決まっていたんでしょう?」 「ごめんね・・・言い出しにくくて。今日は、外食しよう!」 「そうだね、2人っきりでお別れ会だ」 その夜、2人は行きつけの新宿のラ・ラ・パスタに来ていた。リーズナブルにおいしい料理とお酒が楽しめる。・・・と言っても、陽葵は未成年で全く飲めないので、葵がグラスワインを飲むくらいだ。シーザーサラダを食べながら、 「それにしても、よかったね、ミラノ。拓巳さんと毎日会えるようになるし!」 「うん。それに、デザインの仕事もますますやる気が出るわ。問題は、イタリア語かな?」 「自信家のお姉ちゃんが珍しい~」 「私だって、か弱い女よ~」 と、冗談っぽく言ったところでパスタが来た。 葵がきのこのボロネーゼ、陽葵がツナとトマトのクリームソースだ。 「少しずつ、シェアしよう」 小皿をもらって2つに分ける。思った通り、両方とも美味しい。 「デザートは?お姉ちゃん」 「ラ・ラ・パスタ特製ケーキプレート」 「行きますかぁ!」 シフォンケーキにレアチーズケーキ、ショートケーキにモンブラン・・・まぁ、小ぶりではあるが、それでもたっぷりだ。 「あ~お腹いっぱい」 言い合いながら、電車に揺られていた。 「ね、ルームメイトってどんな人?」 「言ったら、拒否するかな、と思ったけどやっぱり隠しとくのもナンだから言うね。私の親友で類友の木村蓮(きむら れん)って男」 「えっ・・・男の人?」 「大丈夫、彼女持ちだし、いい加減な奴じゃないから手は出さないよ。仮に、変なことあったら、縁切る」 「いや、そこまでしなくても。お姉ちゃんが信じている人なら、きっと大丈夫、よね?」 「陽葵が素直で純真なのはいいんだけど、そこが心配で。ボディーガードの意味も込めてきめたのよ」 「おねえちゃ~ん、私、もう18よ~」 「まだ、まだ、子供」 あ~あ。それにしても、初対面の男の人とルームシェアリング始めるなんて、緊張しちゃうなぁ。
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