298人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「七星、ごめん」
突然、頭上から、誓くんの静かな声が降ってくる。
ごめんって、何?
嫌いになったから、別れるってこと?
そんなのやだ!
「誓くん、私……」
言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのか分からない。
「七星、ずっと考えてたんだ。俺は七星が好きだけど、七星にとって、俺と一緒にいることが、本当に幸せなのかって」
やだ! 別れるなんて言わないで。
誓くんと一緒にいたら、幸せに決まってる。
いろんな思いが、胸いっぱいに膨らんで、あふれそうなのに、うまく言葉にできない。
「俺は、七星より10歳も年上だ。この先、きっと俺は七星より先に死んでいなくなる。あと何十年かしたら、たかが転勤でこんなに取り乱す七星を置いて、俺は先に死んでしまうんだ。その時、七星は、どうするだろうって思うと、安易にこの先の約束はできないって思った」
それって……
もっと年の近い人と結婚しろってこと?
そんなの……
私は、誓くんじゃなきゃダメなのに。
「でも、だからって、七星を手放すこともできなくて、中途半端なまま行こうとしてた。だから、ごめん」
『ごめん』なんて言わないで。
「やだ……」
私は、ようやくそれだけを絞り出した。
別れるなんて言わないで。
さよならなんて言わないで。
最初のコメントを投稿しよう!