ハーピーVSガンナー

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ハーピーVSガンナー

 (つゆ)に湿った無精髭(ぶしょうひげ)をザラリと撫でる。  濃く、重たい空気に身動きが阻害されている、と錯覚した。無理もない、半分に割られた月が星空を渡る時刻に、深い森へと入り込んだのだから。  眠る草木の吐き出す寝息が、肌に(まと)わり付くのだろう。  目の前にそびえる巨木の枝で、人ならざる者がバサリバサリと翼を振った。 「隷属(れいぞく)遊戯(ゆうぎ)? 面白そう。いいよ、この翼を撃ち抜いて、私の身体を真っ黒な土で汚すことができたなら、君の 隷獣(れいじゅう) になってあげる」  面白そうな声音から挑発の色を感じ取るが、気を乱す作戦なのか、生来(せいらい)の性格なのかを図りかね、聞き流した。  シリンダーラッチを親指でいじり、回転弾倉を倒す。空虚な寂しさを持て余していた6つの薬室に、1発ずつ銀色の術式弾丸を込めていった。  手の中にあるのは、付き合いの浅い無骨な回転式拳銃(リボルバー)だ。色も柄もない中古の品。この遊戯に勝てたら、少しは見た目を飾ってみようか。 「その代わり、一発も当てられなかったら、この森から出してあげないからね? 君を人形にして遊び殺してあげるんだから」  夜の冷気に晒された長い銃身は、濡れた刃を思わせる。握っているだけで、指先を通じ、感情を持たない殺意が心臓まで這い上がってくるのだ。この感覚に違和感を覚えるのは、夜撃ちの経験が浅いからか。  一度左手に持ち替え、右手を首筋に当てて指先を温め直してから、再び銃把(じゅうは)を握った。  引き金に指を引っかけて、くるくると銃身を縦に回転させる。癖になっているだけの無意味な行為。だが、これを落とすようなら、身体が緊張しすぎているという目安にはなるだろう。  身体は問題なさそうだ。欲を言えば、心に平静さを取り戻したかったのだが、無意味な行為にそんな効果は望めない。諦めて、銃口を地面に向けながら、撃鉄を起こす。  親指が、ガチリと鈍い音を産んだ。 「そろそろやろっか? 準備はいい?」 「ああ、やろう。必ず撃ち抜いてやる」  遊戯の相手はハーピィーというモンスター。  森の使者とも言われる、上半身が人間、下半身が鳥の姿をした生き物だ。腰から膝までが分厚い羽毛で覆われ、その下から羽毛の生えない骨と皮の、鳥類恐竜を思わせる足が続いている。人の腕は無く、肩から大振りの翼が生え、口には固い木の実を潰すための小さな(くちばし)を持っている。  枝が大きくしなり、ハーピィーの影が空へと羽ばたいた。満天の星空を背負い両翼を広げながら、地上を俯瞰(ふかん)してみせる。  真っ直ぐな体と、真横に伸ばした両翼。  黄金色を放つ上弦の月に、黒い十字架が掛かった。己の影を抱くその姿は、色こそ不浄な闇色だが、どこか神聖な生き物として俺の目には映るのだった。   「あはは、威勢だけは良いんだ? でも、勢いだけじゃ、鳥は落とせても、わたしは落とせないよ?」  楽しそうな笑い声を上げながら、十字架が落ちてきた。  
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