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「絶対当たらないと思ったのに。一体、その一発にいくら使ったの?」
「86万 エルカ。今の全財産に加えて、方々から借りて集めた」
銃こそ古い物だが、サンダーテフテフも、それを詰め込む弾丸も恐ろしく高価な物だ。さらに、何度も神社に赴き、必中祈願をしている。今の俺の全部を詰め込んだと言っても過言ではない。
「ええ!? ……そんなに掛けてまで私を欲しかったわけ?」
「相手は飛行型のモンスターであれば誰でも良かった」
「最っ低な男!」
黒いと思っていた彼女の翼は、近づいて観察すると薄めの茶色に、白や黒が混じった複雑な色をしている事に気が付いた。色だけなら雀に似ているかもしれない。大きさも形も全然違うが。
うつぶせになるハーピィーの腰に座って、ふさふさの翼の付け根に隷属の証しを記していく。専用のペンナイフで削る原始的な方法なので、やっぱり痛いらしい。
彼女が時々、草をぎゅっと握って痛みに耐える様子を見せた。
「もうちょっと優しくできないの?」
「悪い」
「もしかして、始めて?」
「え? ああ、今まで隷獣を持ったことはない」
「ふ~ん。君、戦闘能力低いでしょ? 実年齢は10代かな? 良くても20前半。違う?」
「……なぜ?」
「戦闘が下手だもん。まず、一番いい弾丸を6発目に入れている時点でダメ。チャンスが6回もあるって考えでしょ? 銃士は、剣士や闘士と違って攻撃チャンスが少ないの。一発で仕留める気で行かないと、命がいくらあっても足りない。だから、一番いい弾は1発目か2発目に入れること」
「……なるほど」
「それと、飛行する相手に広い場所で戦うなんて、悪手もいい所。障害物がないと空から丸見えなんだから」
「……そういうあんたのレベルは?」
「レベル? ああ、人間にはレベルって言う概念があったんだっけ? えっとどうだろ、この前レベル70の剣士を狩ったことがあったけど」
「……」
普通にやっていれば、間違っても勝てる相手ではなかったらしい。
運が良かった。
「絶対当たらないと思ったんだけどなー。あ、そうだ。良いこと教えてあげよっか?」
「うん?」
「実はね、当たっても当たらなくても、君の隷獣になるつもりだったんだ」
「……え?」
「だから、そのお金は無駄でしたって言う話」
全くいい話ではなかった。
「なぜ、望んで隷獣になろうと思う?」
彼女は腕に顔を埋めながら続けた。
「私はこの森から出てみたかったんだ。この森を出て、色んな世界を見て見たかったの。でも、一人で森を出て行ったところで、たどり着くのは右も左もわからない人間の世界じゃない? だから、人間のパートナーを探してた。そんなとき、ちょうど君が勝負をふっかけてきたんだ」
「なるほど」
本当に金銭を無駄にしただけらしい。
なんだそれは。
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