この輝かしい夏の日に

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「アンドロイド基本法」  俺が生まれた年に制定されたこの法律は、今もまだ改正し続けられている。  簡潔に言うと、不慮の事故などで命を落とした人間がアンドロイドとして第二の人生を送ることができる法律だ。  現在定められている条件は3つ。18歳未満で、家族全員の同意があり、身体機能の2割以上を残していること。  年齢は徐々に引き上げられてきているし、体の残存機能が少ない状況でも安定してアンドロイド化できるよう、技術は恐ろしいほどに進歩し続けている。  そのうち死なんて概念が消えて無くなるかもしれない。俺はそう思う。  絢斗は初詣の帰り道、たった一人飲酒運転の信号無視に巻き込まれてしまった。  孤を描いて飛んでいく弟の姿は、今も目に焼きついている。体は無惨な状態だったのに、顔だけは信じられないくらい綺麗で。本当に健やかに、昼寝してるみたいだった。  向日葵みたいな弟だった。よく笑うしひょうきんで、誰よりも眩しく温かい。絢斗がいなければ家族は機能しない。世界の中心みたいな子だった。  そんな彼の死を一体誰が受容できるだろう。ただもう一度会いたい。その一心で同意書にサインした。ひと月後、絢斗は生前と変わらぬ姿で帰ってきた。  心と体に、たくさんのアンバランスを抱えたまま。 「樹君?」 「え?」  ふと顔を上げると、鉄仮面がじっと俺の顔を覗いていた。ほんの少し日差しが弱まる。彼女は親切にも手の平で頭上に小さな影を作ってくれていた。 「大丈夫なの? 私より酷い顔をしてる」 「話、そらすなよ」 「そらしてなんてないわ。水温計が気になるのね。少し前から壊れてるのよ。自分のエマージェンシーくらい自分で分かるわ」 「本当か?」 「えぇ、ほんとう」  代わり映えのない、一切の抑揚を欠いた声だ。本当かどうかなんて分かったもんじゃない。  結局、考えすぎて良いことなんてこれっぽっちもないのだと思い知る。底無し沼に足を取られた挙句、自責と後悔の波に飲まれるだけなのだ。  俺は本当に正しい選択をしてやれたのだろうか。  絢斗のために。 「その、蟻を見てたって言ったか? お前」 「えぇそうよ。あの木の根っこに巣があって。そこに向かって行列ができてるの」  彼女は再び膝を折り、観察を始めていた。渋々俺も隣にしゃがみ込む。  青春煌く晩夏の昼下がり、高校生の男女が2人、公園で蟻の観察をする。それこそ蜃気楼だと思う。  彼女の視線の先には確かに黒く連なる点々があった。目の前の楠木に向かって一糸乱れぬ隊列を作っている。列は何度も大きく波うっているのに、その道を乱すものは1匹もいなかった。
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