この輝かしい夏の日に

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 家中ひっくり返されたようなひどい惨状だった。カーテンはビリビリに破け、食器の破片が散らばり、そこらじゅうに焼け焦げた臭いが充満している。  物が散乱したカーペットの上で、肌色の小さな物体を3つ見た。絢斗の指だ。原色カラーの配線が剥き出て、カーペットが焦げている。 「おにい……」  見たこともないような引きつった顔をした茜が、ダイニングテーブルの下でカタカタと震えている。その隣で、母が顔を覆って座り込んでいた。 「絢斗は……」 「絢ちゃん、そこ」  茜の指先を見る。絢斗はリビングの隅っこで膝を折り、千切れた指から小さな火花を散らせながら、破けたカーテンを眺めていた。 「絢斗」  へばりつく喉奥をなんとかこじ開け、声を出す。いつもと変わらぬ無表情で俺を見上げる絢斗。でもほんの少しだけ、下唇を噛んだ。  これは悪いことをした時にする絢斗の癖だ。 「絢斗、病院に行こう」 「おにい、今日カレーの日だよね。僕も、カレーたべたい」 「え?」 「おにいの夏野菜カレー、世界で一番好きなのに、食べたいっていったら怒られた」 「なんで急に……我儘言わないでよ!」  母は突然立ち上がった。疲労と憤りが色濃く滲んでいる。言いたくないのに止まらない、苦しげな顔をしていた。 「絢斗はもう人間の食事は食べられないの! カレーなんて食べたら死んじゃうのよ?! やっと口を開いたと思ったら……なんでそんな無理ばっかり!」 「カレーが食べれないなら死んだ方がマシだ! みんなと一緒のご飯が食べれないなら、もう死んだ方がマシなんだ!!」  バチンと義手から火花が散る。  そんなに俺の夏野菜カレーを好いていてくれたのか。お前はずっとその無表情の奥で、こんなことを考えていたのか。  ドロドロの沼に足をとられて、とうとう息ができなくなってしまった。  黒川の言葉が俺の首を絞めつける。これが彼女の言う、大人の身勝手なエゴに巻き込まれた子供の末路なのか。  生きてて欲しいと思うことすら、間違いだったのか。
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