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第一話 観音堂家の人々
【一】
女って面倒臭い。男もよく分からない。だから恋はしない。……というか出来ない。だけどもし叶うならば、性別は問わないけれど親友と呼べる人が出来たら素敵かもしれない。けれども何よりも叶えたい事は、老後安泰なくらいはしっかり稼いで悠々自適に過ごしたい、これに尽きた。
それがあたし、観音堂妃翠の物心ついた時からの夢だった。
突然だけれど、もし世の中の人間の全てを平凡か非凡、その二つに分けるとしたなら、世の中の大半が平凡なる人々で構成されているのだと思う。得てして、平凡なる人々というのは至って真面目で勤勉、平和を重んじる常識的な人々が殆どだ。勿論あたしも含めて。そういう人達がこの世の中を創っている訳で。片や、非凡かつ歴史に名を残す方々というと…常識では押しはかれない価値観の元、行動をする方々が多い。例えば、偉大なる文豪と呼ばれる方々のように。それは、『規格外』級に容姿才能共に秀でたあたしの両親や姉を見ても、全くその通りだと思うのだ。
その価値観は、大学を卒業したばかりの今もさほど変わっていない。身の丈にあった幸せ「足る」を知るのは、何かと世知辛い世の中を生きぬく為に必要な考え方だと確信している。だから、未だ就職が決まっていなくても、唯一の特技である占いのアルバイトがクビになっても、焦らず腐らず前を向いて生きていくしかないのだ。
そんなあたしが今、絶世の美男を目前にして就職の契約内容の話を聞いているのだから、人生何があるか分かったものではない。しかも彼の方からあたしに打診があったというのだから、全くもって桁違いの高額宝くじに当選したかのような奇跡ではないか!
……まぁ、この際話のオチは今は置いておくとして。
彼の名は紫柳粋蓮というらしい。本名だろうか? まぁ、かく言うあたしの名前も、芸名やら源氏名やら名前負けし過ぎやら、散々言われまくって来たのだから、本当のところは分からない。彼から言い出さなければ、何も聞かない。聞くつもりもないのだけれど。
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