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第一話/九.
――二〇一九年四月二十六日(金)
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津島さんと三佐東さんに結果の報告をしたら、すごく驚いて、ショックを受けていたようだったけど、伊豆中さんから預かった謝罪の手紙を読むとその表情はすぐに柔らかいものになった。
「……、伊豆中のことは、覚えてないわけがない。でも、まさか、そうだとは知らなくて……」
「私たちは報告までがお仕事なので。もし被害届でも出したいなら協力しますが、どうしますか?」
「……桐歌はどうしたい?」
「私は……、必要ないです。そりゃあ、驚いたけど……正体が分かったし。ポストを見るのも、これから少しずつ、やっていけそう」
「よかった」
津島さんが三佐東さんの肩を優しく撫でる。すると、彼女が何か思いついたように彼の顔を見上げた。
「そういえば、冬樹さん。伊豆中さんを好きだと言っている人、いたでしょ?」
「ああ、村上か。同窓会で惚れ直したって言っていたな。でも連絡しても無視されるって言ってたぞ」
「私たちの結婚式で引き合わせてみない? 仲が進展するかは、本人たち次第だけど、きっけかになるかも」
「……三佐東さんは、それでいいんですか?」
「え? ……ええ。いいの。怒ることはできない。知らなかったとはいえ、我慢できないほどの苦しみを与えてしまったのなら……少しでも、和らげてあげたいから」
世間は優しい人だというのだろうか。それとも、同情からそういうことを提案している罪深き人かな。私には両方に見える。でも、それがきっと、三佐東さんの良さなのだろう。
「今回は調査してくれてありがとうございました」
「いえいえ。お二人とも、お幸せに」
「ふふ、ありがとうございます!」
「はい、ありがとうございます」
津島さんと三佐東さんが同時にお礼を言う。二人はそのことに気付いてまた同時に笑った。
そこへ、ガチャリとドアがあいて所長と亜澄くんが戻ってくる。抱えているのは、花束。
「やあ、お二人さん。今日で依頼も終わりということで、ご結婚のお祝いがてら花束を」
大橋所長はわざとらしいほどに恭しい言い方で花束を三佐東さんに差し出す。亜澄くんは津島さんに。
「いいんですか?」
「ささやかですが」
「ご協力できてよかったです!」
二人は立ち上がって花束を受け取る。
私が思うに、誰かの好きな人は誰かの好きな人で、誰かの嫌いな人も誰かの好きな人。その逆もまたしかり。好きな人が違う誰かと幸せそうに笑うのは、確かに、辛いけれど、好きな人が悲しむ方がもっと嫌だから。
伊豆中さんは、本当に悲しませてしまう前に、もう一度二人に笑う機会を作った。それは難しいことだったと思うけれど、なんとかなったんだもの。これからも大丈夫なはず。
こうして、招待状代わりの脅迫状が送られてきた事件は幕を閉じたのだった。
【第一話 終わり】
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