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第三話/七.
田嶋彰人さん、愛海さん夫妻。の、お部屋にお邪魔することになった。
この二人が本当に夫婦で梨沙さんがストーカーというなら、どうにかして穏便に解決しないといけないし、所長にも報告しないといけない。(っていうかストーカー多すぎない?)
「改めまして、外鳩奏です」
「ご丁寧にどうも。こちらは妻の愛海です」
「はじめまして」
愛海さんは梨沙さんに髪の色がそっくりだった。メガネはしておらず、目はぱっちりしていてかわいらしい人という印象。
部屋の中はというと、片付いていて急な来客があっても大丈夫なようになってる。生活感はある。夫婦である、というのが嘘とは思えない。
「それで、あの人……田嶋梨沙という人なんですが。いつからか、俺につきまとうようになって。な、愛海」
「そうなんです。具体的な日は覚えてないのですが、ちょうど今みたいな時期だったかな。過ごしやすい季節で」
――今みたいな?
「もしかして、十月二十一日とか」
「十月? あー、まあ、ありえますね。でも日にちはあんまり」
「こんなこと聞いてすみません、お二人の結婚記念日はいつですか?」
「四月二十三日です。だよな、愛海」
「そうよ。写真見ますか? 記念に撮ったんです」
「ぜひ拝見したいです」
ニコ、と笑顔で答える。愛海さんは笑って待ってください、といって席を立った。
「それじゃ亜澄くん、さっきあったこと、最初から話してくれる?」
「分かりました」
「彰人さんは違うところがあったら教えてください」
「はい」
もし違うところがあれば彰人さんが訂正してくれる。その方法をとることによって、“本当の”被害者は誰なのか、依頼主の梨沙さんのことを調べないといけなくなるのなら、明らかにしないといけない。
「最初、やけに大きな声が聞こえるなぁ、と思ったんです。それで、ちょっと通りに入って見てみたら、田嶋さんと田嶋さん……あー、と、梨沙さんと、彰人さんが言い合っていて」
『いつまでこんなことをするつもりなんだ、最近おかしいぞ!』
『あなたが無視するからでしょ! どうして私を見てくれないの? 指輪だってくれたのに』
『頭おかしいんじゃないのか』
『どうしてよ? A to R、って彫ってあるのよ』
『俺には愛する妻がいるんだ!』
……もしかしたら、私達……。色々と問題のあるお客さんから依頼を引き受けてしまったのかもしれないわね。
「それで、梨沙さんの方が興奮していて、彰人さんの胸ぐら掴んだから、まずい、って、とっさに思って」
『こんばんは、何してるんですか?』
『え?』
『はぁ!? 邪魔しないでよ!』
『お、落ち着いてくださ、あっ』
誰なのかと困惑する彰人さんをよそに、邪魔されたと思った梨沙さんは、そのまま左手をパンチよろしく勢いよくのばして亜澄くんの頬をドコッ、と殴ってきたらしい。
「なるほど、ほっぺたの傷は指輪の飾りがあたったのね。かわいそうな亜澄くん……」
「ホントっすよ」
梨沙さんが事務所に来た時に、普通に話せたと言っていた自分を恨めしく思っているようだ。
「お待たせしました、写真です。画面に出しておきました」
タブレットを持ってきてくれた田嶋愛海さんが渡してくれる。
「ありがとうございます」
そう言って受け取ると、ブーケを手に明るく笑うウェディングドレス姿の愛海さんと、白スーツの彰人さんが写真におさまっていた。
「わぁ、おきれいですね」
「ふふ、ありがとうございます」
褒めつつ、そっと写真の情報をパパッとタップして確認する。二〇一六年四月二十三日。二人の言うことは間違いないようだ。
「ありがとうございました、お返ししますね。……あの、お二人とも。ちょっと、上司に電話してもよろしいですか?」
「え? はい……」
「でも、そんな大ごとにするつもりはないんですが」
愛海さんと彰人さんは互いに顔を見合わせた後で、そろってうなずく。
「私たちにとっては、大ごとなので」
それはもう、今すぐ、所長にも同席してもらいたいほどには。
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