第四話◇時計塔の記憶

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第四話/二. ――二〇一九年月十一月十六日(土) ===========  プルルルル、プルルルル。 「……んん……?」  もぞ、と私は腕を動かす。携帯を手に取った。アラームにしては音が違うなと思ったら電話らしい。 「はい、もしもし……」 『ああ、奏か。まだ寝てたのか、もう昼だぞ』 「所長? どうしたんです?」  声の主は、大橋所長だった。……いや、出勤日ではないはずなんだけど。  そしてなんだか人の声が多いような。にぎやかな場所にいるのかな。 『今から出てこい』 「え……? どこへ」 『時計店だ』 「時計店?」  いきなりなんなのか、と起き上がりながら置時計を見る。うん、昼の十二時半。確かに昼だ。 「どこに行けばいいですか?」 『駅前の通りを西へ行って、レモン通りを北へ。コンビニの三軒隣にある』 「駅前を西へ行って、レモン通りを北ですね。コンビニが近く、と」  よいしょ、とベッドから足を降ろして立ち上がりながら返事をする。カーテンをあけると、太陽の光が目に入る。うわっ、まぶしい。すぐにまたシャッとカーテンをしめた。私は夜の方が好きだな。いや、電気の明かりのほうがマシ。 「お店の名前はなんですか?」 『長草時計店だ』 「長草時計店ですね。準備してから出るので、うーんと……着く頃に連絡します」 『分かった。亜澄も呼んであるからな』 「はい、では」  電話を切ってテーブルの上に置いた時に、はて、と首を傾げた。 「長草時計店……長草?」  つい最近その名前を口にした気がする。 ――ああ、そうだ!  長草輝明さん、というのが、所長がかばった人。独立したとか言っていたし、もしかしたらその人のお店なのかも。  自分の中にあった既視感に納得がいったところで、とりあえず顔を洗うために洗面所へと向かった。
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