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第四話/四.
事務所に戻った私と亜澄くんは、手分けして長草さんに教えてもらったお店に電話をっけていった。
「はい、それで被害の状況を――え? いえ、違います。警察じゃなくて、探偵事務所です。た・ん・て・い。探偵事務所。大橋探偵事務所。……あー、すみません。名探偵はいませんよ~」
私の電話の相手は八〇歳を超えたおじいさん。名探偵はいるのか? って、いうなればチームが名探偵…ばりに働いているというか。
「はい、ガラスの修理代は高くなったけど、盗まれたものはなかったんですね。よかったです。……はい。それでは」
ふう。なんとか話を終えて電話を切った。耳が遠い場合は大声で何回も繰り返さないといけないし、警戒されてすぐ電話を切られるということも多くて、結構神経を使う。
「亜澄くん、そっちはどう――」
私が彼の方を向くと、亜澄くんはやたらでれでれした表情で目を細めていた。
「ほんとっすかぁ~? オレも君に興味がわいてきたなぁ。ちょうど求人募集してる? マジ? あー、でもオレは今の仕事が好きだしな……」
静かに近づいた私は、指先でフック―白い部分―を押して彼の仕事じゃなくなった電話を強制終了させた。
「……あれ、切れた」
「切ったの。私が」
「あ、センパイ……」
気付くのが遅すぎる。
「仕事中にナンパ⁉ プライベートな時間ならともかく!」
「だってめっちゃかわいい声だったんすよ! 絶対かわいい系の美女!」
「誘うなら仕事が終わった後にでもしなさいよ! ちゃんと聞けたの⁈」
「それは大丈夫っす! えっと、被害はないって!」
「……被害がないのは分かってるのよ」
長草さんからそう聞いていたのだから。ただ、本当に被害はないらしい。
「う~ん、となると、目当てのものがなかったってことよね」
「これまでに荒らされた時計店は六店舗。長草さんのお店で七店舗っすね。普通、七はラッキーナンバーっすけど」
「アンラッキーナンバーね。長草さんのお店でも盗まれたものがないなら、今回も荒らすだけ荒らした……のかしら」
「ストレス発散にでもしてるんすかねぇ?」
「器物損壊に不法侵入、誰も死んでなきゃいいってわけじゃないのよ」
まったく、と言って腕を組む。亜澄くんにはそう言ったものの、疑問はもっともだ。
そこに鳴る電話の音。
「はいっ、大橋探偵事務所っす! ……ああ、長草さん。奏センパイにっすね、代わります」
「え? 私?」
保留ボタンを押した亜澄くんがうなずく。
「長草さんっすよ。センパイと話したいって」
「私と? なんだろ」
そういって電話を引き継ごうとして、ちらりと彼を見る。
「……亜澄くん。私がこの電話に出ている間も仕事をしてね」
「は、はい!」
「よろしい」
亜澄くんは、現場の画像や監視カメラの映像が届いていないかを確かめるためにパソコンに向き直る。新しいパソコンはサクサク処理が進んで使い勝手はとてもいい。
「お電話代わりました、外鳩です」
『どうも、長草です。さっき確認が終わったんですが、ありました』
「何がでしょう?」
『盗まれたものです』
「え!」
六店舗荒らして見つからなかったものが、七店舗目にして見つかったらしい。
「それは、どんなものですか?」
『時計ですよ。アンティーク大市っていうイベントで購入したものなんです。写真はないんですけど、スケッチなら…』
「では、その時計の絵をぜひ。あ、修理した時計を返した人というのは分かりましたか?」
『はい。言ってもいいですか?』
「どうぞ」
受話器を左肩で支え、素早くメモ帳とペンを取り出す。
『梟羽栄次さんという方です』
「キョウバエイジさん。漢字はどう書きます?」
『フクロウに羽でキョウバ、栄える、次で栄次です。住所もお伝えしましょうか』
「はい、お願いします」
おそらく警察も行くだろうが、私たちも話を聞きに行った方がいいかもしれない。
「……ありがとうございました。そうだ、先ほど話に出ていたアンティーク大市についてもう少し教えてもらえませんか?」
『さっきの梟羽さんが主催しているんです。結構大きいイベントですよ』
「なるほど…」
アンティーク大市、梟羽さんが主催。これも住所に加えてメモする。…フクロウの漢字ってどんなだったっけ。カタカナでいいか。
『梟羽さんのところに行くなら気を付けてください。外鳩さんには優しいと思いますが、もう一人の…』
「亜澄くんだと?」
『…男性相手には少々厳しいんです。根っからの女好きで。取引相手以外だとなおさら』
なるほど、女性でなくても取引相手ならちゃんと話してくれる、ということか。うーん、じゃあ私だけで行った方がいいかもしれない。所長に報告して相談してみよう。
「ありがとうございます、助かりました。所長にはもう連絡されました?」
『ああ、さっき。二人に電話をするように言われて』
「そうだったんですか。お話は分かりました。他には何かありますか?」
『いえ、今のところは。また何かあれば電話させてもらいます』
「はい、かしこまりました。それでは、また」
『よろしくお願いしますね』
長草さんとの電話が終わる。受話器を戻した私は、メモ帳を見返した。亜澄くんはちょうどパソコンを使っている。
「……ねえ、亜澄くん」
「はい?」
「調べてほしいことがあるの。アンティーク大市という骨董品を扱う蚤の市と、その主催である梟羽栄次という人について」
「了解っす。とりあえず蚤の市から見てみますか」
「そうね。ホームページはないかもしれないけど、イベントサイトにくらいはのってるだろうから」
いったい、梟羽さんってどういう人なんだろう?
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