第一話◇脅迫状は招待状

4/9

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
第一話/四. 「このあたりね。住所はあってる……あのマンションかしら」 「だと思います。えっと……この方ですね」  集合写真を取り出して確認する。品のよさそうな女性だ。これは……、確か三佐東さんのご親戚だった。 「亜澄くん、近辺のスーパーがどこにあるのか調べて。コンビニは……使うかな、どうだろう」 「さあ……オレのばあちゃんは使いませんね」 「一応聞くけど、おいくつ?」 「七十歳です!」 「……この方は六十だそうよ」  やっぱり、少し違った。けど、この時代だしなぁ。年齢は関係ないかもね。 「で、スーパーは? あるの?」 「はい。この辺だと、近いのは二ヶ所ですね。少し遠くにもう一ヶ所」 「坂道はある?」 「上り坂なのは一ヶ所、ここから東です」 「じゃあ、そこともう一ヶ所の道が交差するところに行きましょう。確率は二分の一だけど、通るはずよ」  この家から近い角は二つ。これから行こうとしている道を来てくれれば、たやすく話しかけられる。  早速、私たちはそこへ向かった。 *** 「ありがとうねぇ、亜澄さん」 「いえ、平気です……ッ」  二つのスーパー袋は結構重いらしい。  私たちの予測はあたり、彼女――Yさんとしよう。Yさんが通りがかり、重たそうに見えたから亜澄くんに声をかけさせて、ご自宅まで持っていく話をつけることに成功した。 「亜澄、あと少しよ」 「頑張りますっ……」  袋の中には卵も入っている。割らないようにしなければね。  Yさんはシルバーカートをガタガタと押しながら歩く。彼女はいつも荷物をこのカートに乗せているのね。 「今日はいっぱい買ったんですね」 「そうよ。夜には娘夫婦が遊びに来るの」 「あら、いいですね。お孫さんはいるんですか?」 「ええ。だから孫も来るの。今日はごちそうよ」 「にぎやかになりますね! ごちそうといえば、先週結婚式があって。私たちもごちそういただいたんですよ~」 「いいわねえ。そうそう、私も結婚式に招待されていてね」  キタ!  この話を待ち望んでいた。 「結婚式ですか、娘さんには兄弟でも?」 「いえいえ、娘は一人よ。結婚式するのはね、私の従姉妹の娘さんなの。楽しみよ~、お相手もいい人みたいだしね」  ニコニコと上品に笑う。三佐東さんのお母さんの名前がなかったのはそういうことだったんだ。 「会ったことがあるんですか?」 「いいえ、会えるとしたら結婚式のときねぇ。でも写真は見たわよ。従姉妹の話では、お相手さん、高校生のとき同級生だった人で、今は上場企業に勤めているんですって。絵にかいたようないい人だと」  そう言われてみれば、津島さんと三佐東さん、美男美女カップルだった。理想の二人よね。 「同級生だったんですね!」 「ええ。同窓会で会って、交際をはじめたって聞いたわよ。五年前の」  津島さんが話してた通りだ。ということは、その同窓会についても調べたほうがよさそうかな。 「ウェディングドレス姿も見たのだけどね、すごくきれいだったの。楽しみだわぁ」  うんうん、三佐東さんのウェディングドレス姿、想像しやすい。細いから、ドレスが似合うんだろうなぁ。それこそ天使、いや女神に見えるかも。 「あ、そうだ、見る? 従姉妹から、娘さんが試着したときの写真を送ってもらったのよ」 「ぜひ見たいです!」 「あ、オレも見たいっ……!」 「ええ、もちろん。亜澄さん、このカートの上に置きなさいな」 「ありがとうございます」  亜澄くんがドサッと袋をひとつ置く。そして、二人で両側からYさんの手元をのぞきこむように肩あたりに顔を近づけた。  Yさんが携帯をカバンから取り出す。 「ささ、見てみて。えっと、画像を見るには……このボタンであってる?」 「はい。それから画像っていうのを選んで……、あ、それですね」 「ええ、そう、この写真よ。ほら」  Yさんの携帯はもはや化石になりつつある折りたたみ式の携帯電話。……というと、現役もいるのに失礼になるから撤回しましょう。まだ愛用者も多い、折りたたみ式の携帯電話。  にしても、なんかこの写真に見覚えがある。最近どこかで見たかな? 「……素敵ですね。どちらで式を?」 「カタカナだったわねぇ……、なんとかロマンス、だったわ」  ……なんとかロマンス? あ、もしかしてあそこかな。 「……もしかして、プライマリーロマンス?」 「そう、それ。たぶんあってるわ、有名なんでしょう?」 「みたいです」  チラシが入ってるくらいだから。そうそう、私もポストに入ってたのよねー、結婚相談所のチラシ。 「ええと、この結婚するお二人は結婚相談所で知り合いに?」 「どうかしら……長くお付き合いをしているとは聞いたけど、結婚相談所のことは聞いたことないわね」 「そうなんですか。いやー、私もそろそろ結婚したいなぁと思っているもので、えへへ」 「大丈夫よ、あなたいい子だしすぐ見つかるわ。ね、亜澄さん」 「そ、そうですよね。オレにとっても自慢の姉さんだし!」 「ありがとうね」  亜澄くんの目が泳いでいる。Yさんはきっと気にしないけど、他の人だと嘘だってバレバレじゃない! 演技も練習してもらわないと。 「さ、おしゃべりはここまでにして。亜澄、あと少し。頑張って!」 「う、うっす!」
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加