第一話◇脅迫状は招待状

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第一話/五.  夜、事務所に戻った私と亜澄くん、そして大橋所長で今日の進捗報告をしあうためにそれぞれのデスクに座っていた。 「さて、進捗はどうかな。奏、亜澄」 「今日は、わりと近くに住んでらっしゃるリストナンバー五の方に会いに行きました。気さくな方なのでお話もしやすかった。ね、亜澄くん」 「ああ、姉さ……、じゃない、奏センパイ。荷物は重かったけど、手伝えたのはよかった」  元気にふるまっているけど、それよりも“おなかすいた!”って顔をしてる。 「そうか。私は話を聞いてきたが、特に不審なことはない」 「監視カメラはどうでした?」 「一応、管理人に話をしにいったが、分からないから諦めてくれ、だとさ」  なんだ、やっぱり聞きに行ってくれたんだ。じゃあ今後は、期待することにしておこうっと。 「やっぱり、順番に話を聞いて回るほかなさそうっすかね」  そこに鳴る、ぐぅうぅううという威勢のいいお腹の音。今しがた話した、亜澄くんのお腹。 「……亜澄くん。お腹すいた?」 「ま、まぁ」 「んじゃ夕飯とするか。奏、明日話を聞きに行く人を決めておけよ」 「はいはい」  今日は三人で、ということらしい。そういうときは、一階に入っているレストランへ行くのがいつものこと。 *** 「おお、大橋さん」 「やあ、マスター。三人、いい?」 「どうぞ。いつもの角にある席、あいてるよ」  私たちを笑顔で出迎えてくれたのは、レストランの店長でありバーのマスターでもある、空井(そらい)路可(ろか)さん。私や亜澄くんはソライロさんって呼んでいる。所長はさっきのとおり、マスター、がほとんど。 「ご注文は?」 「オレ、明太もちと和風キノコのハーフ&ハーフでドリンクセット! ドリンクはオレンジジュースで!」 「私は、シーフードリゾットのサラダ付ドリンクセット。アイスティーでお願いします」 「私はいつものだ、よろしく」 「了解だ。そのまま待っててくれ」  ソライロさんは目を細めて笑うと、早速調理をはじめた。  店内には、私たち以外に二組のお客さんがいる。食器が多いから……、結構長居してるのかな。 「持ってきました~」 「ありがとう、亜澄くん」  亜澄くんが三人分の水を入れたカップを持ってきてくれた。水はセルフサービスだから。 「にしても、奏センパイ。今日のあの感じだと、誰か結婚したい人でもいるんすか?」 「えっ? 何よ、急に」 「結婚式場の名前を知ってたから」 「ほう、そうなのか? 奏」 「違う! 違うから」  所長まで便乗してきちゃった。亜澄くん、変なところで勘がいいのよね。  ああ、舜くんの結婚式……出席するかどうか返事をしなきゃいけないんだ。どうしようかな、っていうかいつだったっけ、日時……。 「……?」  あれ?  なんとなく違和感を覚えて、グラスを手にしたまま、私はかたまってしまう。 「奏センパイ?」 「……結婚式」 「津島さんと三佐東さん、お似合いですよねー」 「亜澄もしたくなったか?」 「オレは……まだまだ先だと思ってるけど、いつかはしたいっすね、やっぱ!」  楽しそうに男二人が話す。そんなことより、あのときの写真……。どこに違和感があったのかな。 「……あ!」  気が付いた。私の大きめな声に、所長と亜澄くんが少しだけびっくりしたように私を見た。 「どうした、奏」 「どうしたんですか?」 「今日会った、あの人が見せてくれた写真……どうしてその場で気付かなかったんだろう」 「何の写真を見たんだ?」 「三佐東さんがウェディングドレスを試着している様子っすよ」 「彼女は三佐東さんのお母さまの従姉妹だったんです」 「それで何に気付いたと?」 「新しい、かもしれない、登場人物」  どや顔をしたいのをおさえて、微笑みながら二人に笑いかける。そう、大事な大事なキャラクターがいるのよ。ひっそりじゃなくて、堂々と出てくれたらもっと早く気付けたのに!
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