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第一話/七.
――二〇一九年四月一五日(月)
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「奏センパイ、準備できました」
「じゃあ一階で階段を見張って」
「本当にいいんですか?」
「いいの。早く」
「はいっす」
申し込みをした約一週間後、私たちは、ビルの入口にあるポストを見張っていた。私は柱の陰に、亜澄くんは顔が分からないよう帽子を目深にかぶり、ソライロさんのお店の看板近くに立つ。
要は、ポストに伊豆中さんが投函しにきたら二人ではさみうちできるってこと。
私と亜澄くんがプライマリーロマンスに行ったのは、昨日のことがあったから。一昨日Yさんに話を聞きに行って、昨日は同窓会をしたというのが気になったからその高校を調べた。
津島冬貴、三佐東桐歌、そして伊豆中苑。三人は同級生だった。あの同窓会でもあっている。
さすがに申し込みをしてすぐには来なかったけど、こうやって見張りをはじめて一週間。そろそろ来てもいい頃合いだ。
伊豆中さんが、“幸せ”な誰かを傷つけたいのなら。
コツ、コツ。
「っ!」
サッ、と柱の陰に隠れる。明らかにヒールの音だ。お客さんの可能性もあるけど、その足音はポストのあたりで止まる。
―奏センパイ、伊豆中さんが上行きました。
―了解、見えてる。
チャットでやり取りをすると、そっとデジカメを取り出して、バイクが通る音に合わせてシャッターを切る。そこにうつるのは、ポストに手を入れる――伊豆中苑。
―下に降りたところで捕まえて。私も追いかける。
―了解です。
彼女はキョロキョロ見回す。柱の陰にいるので私は見つからない。
伊豆中さんは階段を降りて行った。私も小走りで追いかける。
「……何するのよ!」
腕を掴まれて声を上げる彼女に声をかける。
「伊豆中さん!」
「な……、外鳩様?」
「……さっきの、写真に撮りました」
カメラを見せると、伊豆中さんの表情がこわばる。
「その人は、亜澄くんです。内鷹亜澄」
「ども」
彼女の腕を捕まえたまま、亜澄くんが帽子をとる。
「……どういうこと?」
「それはこっちの台詞です。オフィスまで同行してください」
「大丈夫です、何かするわけじゃありません。話を聞きたいだけです」
私と亜澄くんが言うと、本当に? と言いたげな瞳で見つめてくる。
「……私と彼は婚約もしていないし、恋人でもありません。大橋探偵事務所の社員なんです」
「探偵事務所……」
それでようやく分かってくれたらしい。彼女はコクリとうなずいて、私たちは探偵事務所へと入っていった。
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