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「白雪姫が死んで悲しんだ小人たちは、白雪姫をひつぎに寝かせて森の中におきました。その森へ、ひとりの王子がやってきました。『おお、なんと美しい姫。まるで眠っているようだ』」
何度も読み聞かせている絵本なのに、娘は毎回ここで瞳を大きくし、僕の膝の上に乗せた体を少しだけ前に乗り出す。王子がキスする絵をよく見たいからだ。
「そう言って王子は、白雪姫にキスをしました。すると……」
プルルルル…… プルルルル……
携帯電話を見ると、部長からの着信だった。
今日は休日だぞ! ったく。でも部長からだから出ないとダメだよなあ。
ああ、このタイミング。ナナが怒るだろうなあ。頑張ってなんとか5分で切り上げよう。
「ナナちゃん、ちょっとごめん。パパお仕事の電話きたから」
「もう! 白雪姫、目覚ますんでしょ! 今一番いいとこなのに。ヤダヤダ! 早く読んで!」
「あと5分で目覚めるから! ちょっと待ってて!」
「そんなカップラーメンみたいなお姫様やだあー!!」
騒ぐナナに背を向けて、部屋の扉を後ろ手に閉め、急いで電話を取りながら廊下に出た。
少しの間ナナの声が聞こえていたが、駄々をこねても私は帰ってこないと諦めたのか大人しくなったようだ。
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