パパ×ナナ

　そうだ！　昨日会社でもらってきた給与明細をチラつかせてみよう。
　ナナがパパのことをないがしろにするのは、尊敬が足りないからだ。きっとパパのお給料を見れば——

『パパってこんなにお給料もらってるの！？　え、パパ、部長じゃん！　ナナ、絶対パパみたいな人と結婚する！　ナナ、もう一人暮らし辞めて、こっちに戻ってパパと一緒に暮らしたいな』

　どうだ！　きっとこうなるに違いない。

「おおっと、いけない。うっかり給与明細が手から滑ってしまった」
　僕は偶然を装って、ナナが座っている食卓のテーブルの上に給与明細をひらひらと落とした。
　ナナはちらりとも見ない。

「いやあ、本当に税金が高くていけない。働いても働いても税金でごっぽりもっていかれてしまう」
　税金が高い人は、イコール給与が高い。嫌味のないスマートな高収入アピールだ。
　無反応のナナ。「税金高い」が高収入の隠語だと分からなかったのか？

「ナナ、パパの給与明細を見てごらん。ほら、ナナももうすぐ就活始まるんだから、こういうの見といた方がいいよ」
「就活かー。パパ嫌なこと言うね」

　しまった！　デリケートゾーンに踏み入ってしまったようだ。完全にしくじった。ナナはもう話してくれないかもしれない。「パパ尊敬」からの「パパと一緒にいたい」作戦が！！