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合図の後から五分間、ですね。わかりました。
ええと、何から話せばいいのかな。正直、いくらでも話せそうなんだけど……
でも、あと五分て決まってるからな。後でいじってもらうのも大変だろうし、がんばってまとめよう。そうしよう。
おれの名前はカイト、です。海を渡る、で海渡。おれをひろった人がつけてくれました。
生まれたのはうんと南の方です。家族は両親と、上のきょうだいが何名かと、あと血は繋がってないけど近所のひとたち。みんな仲が良くて、いつもいっしょにいました。いろんなところを行き来して、他のとこに住んでるひととやり取りして、毎日楽しかった。
おれは家族の中でいちばん小さかったから、行動範囲の広いみんなについていくのがけっこう大変でした。心配してくれたし、いっぱい気を遣ってももらったけど、やっぱり無理があったんだろうな。
あの日、大嵐の中でみんなとはぐれて、事故に遭ってしまって。もうだめだと思ってた時に、あの子と会いました。
ミオ、っていうんです。美しい音、で美音。きれいな名前でしょ? うん、おれも好き。
動けなくなってた時、名前のとおりすごくきれいな声で話しかけてくれて。もう大丈夫だよ、お医者さんが助けてくれるからねって、病院につくまでずーっと励ましてくれて……
あの子は全然、大したことしてないよっていうけど。家族とはぐれて大ケガして、心細くてたまらなかったおれにとっては、天使みたいに見えました。本当に。
いや、女神様かな? だってきれいなのは声だけじゃないし……え? その先どうぞ? すみません、つい。
病院で手当てしてもらったあとも、ミオはしょっちゅう会いに来てくれました。いつも花を持ってきて、部屋の外からうれしそうに振って見せて。
おれは花を直接触ることはできないから、係の人が預かるんです。でも、その前に必ず名前を教えてくれるんですよね。
いっぱい覚えましたよ。えっと、ふわっとしてるバラはオールドローズ。それからチューリップ、ガーベラ、カスミソウ。小さいのだとヒナギクとかサクラソウとか。
きれいでしょ、って、来てくれるたびにニコニコしてるんですよね。花ももちろん可愛かったけど、正直ミオが笑った顔の方が可愛かったなぁ。リハビリはけっこうつらかったけど、ミオが見てると思ったら弱音なんて吐けないし。カッコいいところ見せたいじゃないですか、だから必死でがんばったりして。
……え、だから先どうぞって? すいません、何度も。
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