余生の猫

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余生の猫

お盆が始まった。 今年は午前零時までみんなの帰りを待った。 近頃、里帰りの頻度、ではなくて、滞在時間が減っている。理由はなんとなくわかっているの。いやでもそれは考え過ぎかもしれない。だって彼らは気分屋(ねこ)だから。 愛するシロコさんはダンボールを厳重に重ねに重ねに重ねて保護されて運ばれたけれど、それは彼女が恐るべき凶暴さで、箱の隙間という隙間から殺気ガンガンシトメルパンチを連打していたからだ。ちなみに洗濯ネットはビリビリに引き裂かれたわ。わずかな光に反応して繰り出される猫の腕(手ではなく肩から先の腕全部)は狂気で凶器。気高いシロコさんは人間なんかに自由を奪われたくなかったのよ。 あら失礼いたしました。閑話休題ね。 チビ猫はケーキ箱でやってきた。きちゃない灰まだらの猫。首から下に蚤取りのアルコールを拭きかけられ、顔に全ての蚤が逃げてくるという悲惨な診察台の上で獣医さんは、生後一ヶ月かなあと言った。ザブザブと小さな躰を洗われてる間、びっくりする大声でニャーニャー鳴き続ける。真っ赤な喉を見せて限界まで口を開け叫び水で咽せて溺れた。おばかだった。 顔の蚤は拭き取って最後に薬を首の後にちょんとつけてもらい、虫下しものませてもらった。虫下し、いやな想い出しかない代表言語。 洗われて綺麗になった猫はところどころ灰色の模様のある鼻も肉球もピンクの白い猫だった。色素の薄いアイスグレイの瞳の片方は光の加減で薄い萌黄色にも見えた。 後になって、灰色は落ちなかった汚れで、一点の染みもない白猫だとわかったけど、仮の名は竹炭(たけずみ)にしてしまっていたの。(女の子)ならシンデレラにしたわね。可愛い猫はすぐに里親が見つかる。雄の白猫でオッドアイだ。2カ月もあれば十分に引き渡せる。そう思ってたわ。 その年は災害の多い年だったの。かかりつけとは別で、懇意にしてる動物病院がある隣の市が水に浸かったわ。その一月後には隣の隣の市で大きな地震。100キロ近く離れていたのに、うちのボロアパートの外壁が崩れる大きな地震だったわね。うちの猫たちはテレビでよくある『地震を察知する獣』ではなく、揺れがおさまったあとに、目をまんまるにして周りを警戒してて、ちょっとがっかりしたの。予知しないのねぇ、君たち。 相次いだ災害で保護しきれない震災犬猫が溢れかえっていたのはどこの動物病院も一緒。ケーキ箱のチビ猫も地震の日、親からはぐれたのか車道で大声で鳴き立ち往生していたのを動物看護師(友人)が捕まえ、あずけられる場所が無くうちに来たの。友人は動物病院の寮に住んでいて、すでに犬猫14匹の面倒をみていたしね。医療費はその動物病院が負担してくれたし里親募集もかけてくれて、こんなに気楽な預かりボランティアは無いと軽く引き受けたわ。
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