余生の猫

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結果、今もうちにいますの。 うちの猫はもう(ずみ)だけ。 暑い夏の日に体調を崩したずみは、年末の雪のない凍える寒さの日にも体調を崩した。 1階の涼しいリビングで寛ぐことも玄関の冷たいタイルで転がることも、風呂場で洗面器に足を浸すことも、こたつで犬を追い出して寛ぐことも、リビングの出窓で日なたぼっこすることも湯船の蓋の上で暖まることも、全部ぜんぶ忘れたの。 忘れてしまうと思わなくて、2階の寝室の空調設備管理を怠ったワタクシのせいで夏の二週間何も食べられなかった。冬の5日間食べられなかった。それはシロコさんもいなくなって独りぼっちになって2度目の夏の話で3度目の冬のこと。つい去年の話よ。 ずみはいままでの習慣も一緒に過ごした誰のことももう覚えていない。 ずみは腎臓疾患があった。 ずみは耳が聞こえなかった。 ずみは(賢さ)が足りなかった。 ずみは母猫に見捨てられたのかもしれない。不安になると昼夜ところ構わず鳴き喚く。愚鈍でない母猫なら他の仔猫を生かすために、ずみを見捨てるだろう。 3日出張に行くと、ずみはワタクシを忘れて、初めましてよろしくね?をやり直すの。ちっとも苦では無かったわ。家の中で迷子になってみんなに助けを求める。おまえはばかねえ、と毎日笑うわ。手がかかるようでかからない猫。おかげで好きな食べ物を今更模索している。きみはちゅーるでさえ食べない味があるんだね。 たくさんの猫と暮らして見送って看取って。なのに今初めて『猫』と過ごしていると実感する。 親友でも母でも娘でも姉でも弟妹でも戦友でもない。だけど家族の君は猫。うちの猫。ずみに何某を重ねてみない。ずみは竹炭という名前の猫でしかない。みんなみんないなくなった後にずみだけが、飼い猫と飼い主という正しいスタンスで傍にいたの。君との時間がたくさんあることを毎日祈るよ。 お盆のあいだ、ずみはきちんと食べる。リビングで涼んでお風呂場で洗面器の水に尻尾を浸したりする。階段でなーうなーうと甘え声で呼んで走り回っている。迷子で鳴いても叫び声から甘え声に変わる。そして体調が少し回復する。背骨は浮いたままで太りはしないけど、ほんのすこし、僅かな変化でしかなくても回復する。 この夏は体調をあまり崩ささなかったわね。ワタクシ学習したの。温度管理大事。
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