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  「次の駅で引き返していいぞ……」 「絶対ヤダ。降りん」 「無理しなくていいって」 「してないし。空とは25年間べったりだったし。もう十分だし」  てっちゃんはふう、と溜め息を吐き、スマホでゲームを始めた。『みんゴル』て。俺が隣に居るのに『みんゴル』て。これも空に報告しよう。 「うち散らかってるからな」 「どうせ引っ越しすんだし一緒に片付けよ」 「んー……」  素っ気ないのは車中だからか。人目があるからか。まあ当然だけど。てっちゃんちに着いたらいっぱいイチャイチャしよう。一週間てっちゃんを独り占めだぞ。でも、てっちゃんが会社に居る間はひとりぼっちだ。空も居ない。  それも当然なのに、全部解ってくっついて来たのに………鳩尾(みぞおち)あたりがずっときゅうきゅうしっぱなしだ。  てっちゃんはスマホに視線を落としながら何度か『引き返していい』って呟き、俺がその度に『嫌だ』って応え。そんな無意味な遣り取りをしているうちに目的地に到着した。 「めんどくさいからタクシー使うかー」 「うん♡」  てっちゃんのマンションに上がるのは初めてだからワクワクする。そう言えばウチの隣ん()のてっちゃん部屋は日当たりの良さゆえか洗濯乾燥室になっていた。てっちゃんのおっちゃん、年々花粉症が酷くなって洗濯物の外干しが禁忌になったとか何とか言ってたけど。 「てっちゃん、帰って来る家あんの?」 「フツーに部屋借りる」 「え!それって俺らの為に!?」  じろりと睨みつけられたけど顔が赤い。それはお陽様に炙られての事ではなく、照れてるからだって解る。でも冷静に考えたら当然だわ。おっちゃんおばちゃんが住む家で[あんな事]や[こんな事]なんか出来ないし。しかも3[ピ───]とか無理無理。  う───ん。てっちゃんのエロさは配慮が行き届いている。これも早速報告だ。空のやつ飛び上がって喜ぶぞー、と思って後ろポケットからスマホを取り出したタイミングでタクシーじゃなく水色の乗用車が目の前に停まった。 「………うわ」
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