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新幹線の到着時刻は15時54分。そこから6分遅れの16時ジャストに駅のロータリーに滑り込んでくれたオトン。タクシー乗り場に陸とてっちゃんの姿を発見した時は生き別れの肉親に何十年振りに再会したかのようにまた涙が溢れた。実際のところは三時間も経っていなかった訳だが。
でもその三時間振りでも陸の匂いが懐かしかった。後部座席でスンスンする俺の隣に寄り添ってくれる陸に物凄く安心出来た。陸も「空が居ないと落ち着かん」って言ってくれた。嬉しかった。
「じゃあてっちゃん!ウチの子ら宜しく頼むね!」
「ホントにいいの……?おばさんが怒るんじゃない……?」
「この時期暇だし!静香ちゃんなら解ってくれるから!」
我が家で最も強いのはオカン・静香だ。オトンが責められないように後で二人で電話して謝ろう………
オトンの車を三人で見送り、最初の交差点を曲がったのを見届けると、てっちゃんは俺らを睨み上げた。
「おじさんにまで迷惑掛けやがって」
「「ごめんなさい……」」
「さっさと荷物運べ。米が重い」
「「はいっ!」」
キャリーバッグにはオカンが持たせた米が詰まっている。コロコロが付いていても重い。エントランスに向かうてっちゃんに続きそのまま無言でエレベーターに乗り込むと、てっちゃんは大きな溜め息を吐いた。そして俺と陸の腕に両腕を絡ませて来た。
「流石に一ヶ月も二ヶ月も置いとけないけど、お前らが居てくれてホッとする」
「元カレまた来るかな」
「さあな」
俺の目には全く入っていなかったけど、てっちゃんの元カレが駅に現れたと聞いてムカついた。こんな素晴らしいてっちゃんと独占的にお付き合いしながら浮気しておいてよくもよくも……!
「てっちゃん意外と男見る目ない」
「喧しいわ」
不満そうなてっちゃんがドアが開けると、閉め切っていた部屋には外よりも暑い熱気が充満していた。汗が噴き出す。レースカーテンからは傾き掛けた陽が射し込み、エアコンを着けたり窓を開けたりするてっちゃんの背中がちょっぴり寂しく見えた。
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