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   毎年毎年夏季休暇だから盆だからって帰省するのは既婚者だけだろって何となく思っていた。  それが今年に限って足が向いたのはリョーマと別れたからってのが大きい。一人きりで過ごす夏が流石に寂しかった。虚しかった。そこは素直に認める。  面倒ごとが嫌いで束縛なんて以ての外だったのが災いしたのか、浮気された末にあっちのがいいと呆気なく乗り換えられたのには(こた)えた。仕事仕事で構ってくれなかったからとか何とか、女々しい言い訳には寒気がした。いつも思うがこの『女々しい』の字面……寧ろ女の子達に失礼だわ。謝りやがれ。ごめんなさい。 『哲太は俺のこと、大して好きじゃなかったでしょ』 『俺の気持ちが離れた事も、こうして口にするまで気づきもしなかったよね』  ─────ちゃんと好きだったわ。  優しくて重くなくて体の相性も良くて。尻軽を自覚する俺が二年も付き合えたなんて初めてだったのに。  リョーマ自体は重くなかったのに、二年分の思い出がこんなに重いとは盲点だった。いや、これは俺自身の問題だからさっさと縁を切って次に行こう。次だ次。 「つーことだから、二人とも昨夜の事は忘れるように」 「「はあ!?」」 「俺は盆明けには一人であっちに帰って次の恋をする。慰めてくれてありがとう」 「「いやいやいや!」」  いつ見ても双子のシンクロ率ってすげーな。言葉が飛び出すタイミングも目の見開き方も全く同じだ。あんまりそっくりだからってんで、小学生まではおばさんが色違いの服とかを着せてたけど、中学で制服着用になると入れ替わって授業を受ける悪戯を繰り返しても誰も気づかなかったらしい。(俺にだけはこっそり教えてくれたが) 「てっちゃん、嘘つきは泥棒の始まりだよ」 「てっちゃんが一人となら付き合うって言うから俺ら」 「酔っ払いの言う事なんかアテにならんって学べただろ感謝しろ」
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