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一回きりなら酒の上の過ちで何とかなる(かも知れん)が爛れた関係を継続させるのはイカン。松本のおじさんおばさんに顔向け出来ん。俺が女の子ならまだ救いもある(かも知れん)が隣のお姉さんじゃなくてお兄さんじゃ洒落にならんだろ。
「うわー」
「ズルいわー」
「「真っ当な大人みたいな事言ってるー」」
「喧しいステレオ放送。取り敢えず二人とも帰れ。そんで頭冷やせ」
俺も冷やしたい。頭も体も、夏のせいと言うより昨夜の熱が抜け切っていないのがどうにも釈然としない。冷たい素麺を食っても、冷たいシャワーを浴びても─────
『てっちゃん大好き』
『てっちゃん可愛い』
安心しきって心地よく体を開いた自分がどうにも情けない。こんな事ならリョーマと出会ったマッチングサイトでも漁れば良かった。同じ一夜限りなら、罪悪感も後悔もなく割り切った時間潰しでもした方がずっとマシだったわ。
畳の上に胡座をかいたリクもソラも黙って俺を見詰めて来る。いつも煩い二人が黙るから、外の蝉の鳴き声が耳に障る。エアコンのモーター音も縁側の風鈴の音もだ。
「昨日………俺らが好きって言ったら嬉しいって………それも嘘?」
「俺らの気持ちって………てっちゃんには迷惑?」
「「俺らのこと嫌い?」」
想われて嬉しいのは嘘じゃない。迷惑でも嫌いでもない。でも、それを口にして増長されたら元も子もない。俺はだんまりを決め込み、こいつらが諦めて帰ってくれるのを待つ作戦に移行した。
この大型犬達は実は賢い。ダメなもんはダメだと教え込めばちゃんと解ってくれる。自業自得ではあるが、俺のこの複雑な心境だって察してくれるに違いない。
が。
昔から客間の壁にくっついている鳩時計が午後三時のポッポーを三回告げたその途端、二人が同時に動いた。
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