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それから30年……
修行に励んでいた男は、小汚なく髪も髭も伸ばしきり 修行を始めた頃よりも丸々としていた。
「くそ、くそっ」
到底、修行している身と思えないその男は、小汚ない格好に似つかわしい小汚ない言葉遣いで、あらゆるものを罵倒していた。
「これも壊れた。もう使えねぇーものばっかだ」
電子機器を巧みに操っていた男は、それを放り投げドアへ向かって叫ぶ。
「おい、くそばばー!くそばばぁ、早く飯持ってこい」
その呼び掛けに、反応はない。
男は重い腰を上げどすどすと歩く。床に散らかった物々を足で蹴飛ばしながら。
顔半分くらいドアを開け、もう一度叫ぶ。
「おい!おい!!きこえねぇーのか」
しん、と静まった向こうの部屋からはなんの反応も、なんの物音すらもしない。
男は静かにドアを開ける。
そっと廊下を進み、とある部屋を開ける。
「なっ……なっ……」
男は絶句した。
そこにあったのは死体。横たわったその躯体には刃物が突き刺さり、床には乾いた血が……
男は怖くなって家を出た。
走った。何十年ぶりに 外界 を走った。
『小汚ない太った男が、隣家から走って逃げていきました。』
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