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ことの真相は……
母親は悩んでいた。
80歳を前にして、貯金は底をつき 足腰も衰え、年金では体格の良い男とふたり、とっても生活していけなかった。
だか、自分が死んであの男に保険が支払われるのはしゃくだった。
早くに旦那を亡くし、女でひとつ懸命に働いた。その仕打ちがこれか、と。
とても実の息子だと思えなくなっていた。
ただただ飯を食らう、大きな生き物を飼っているような、自分の人生の重荷。
極限まで追い詰められた母親は賭けにでた。
息子の部屋の前に包丁を置いた。
それを見て、怒ったつけようが息子が その包丁で自分を刺しても良いと思った。寧ろそうしてほしかった。
だが、男はその根っこに母親譲りの優しさを持っていたから、そんな物騒なこと思い付きもせず……
「こんなところに刃物置くなよ!ボケてんのか!?」
と、悪態をつきながらも そっとキッチンの包丁入れにしまった。
母親はそれを、しっかりと見ていた。
きっかけさえあれば、せめて旦那が生きていたら何か違っていたのかもしれない。
でももう、やり直すには時間が足りないのだ。
母親は周囲を荒らした。キッチン、リビング、抵抗した様に見せるために 工作した。
せめて、可哀想な母親として誰かに憐れんでほしい。ただその思いで……
そして、母親は床に横たわり、包丁の持ち方に気を付けながら 自らの腹に包丁を突き立てた。
「お父さん、ごめんね。息子をあんなにしてしまって。今からソチラに行くからね……」
母親はゆっくりと目を閉じ、だんだんと思考が停止していった……。
絶命したとき、母親は泣いていた。
悲しかったのではない、やっと終わった安堵からくるものだった。
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