ずっとこの手は離さずに

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「太一のせいなんだから」 右頬の2つのほくろが膨らむ。 「ごめん」 「なーんてね。うそうそ」 ひょいっと彼女は立ち上がる。 「そろそろ帰ろっか」 夕暮れ近くなり、燃えるようなオレンジと燃え尽きた黒のコントラストに染まる道を歩く。 「沙織はいつ帰るの?」 揺れる彼女の髪を眺めながら尋ねる。 「明日の夜。明後日だと多いだろうし。時間はまだ決めていなんだけど」 「バス?」 「そう。太一は?」 「俺も。明日の夜にしてる。夜も最終だと混むから、その1つ前にしたいけど」 「そうよね」 沙織の家の前ついた。 「今日はありがとう」 「こっちこそ」 しばらく見つめあっていた。 「じゃあ、帰るね」 そう言って彼女は家の方へと向く。 その姿に10年前が重なった。 まだ、伝えられていないことがあるんじゃないか。 このまま終わらせていいのか。 いいわけ……ない! 「あのさ」 門扉の向こうに行こうとする彼女に声をかける。 「明日さ、帰る前にまた会えないかな」 後ろ姿のまま動かない。 「ここだけじゃなくてさ、駅の方とかも変わってるか見たくて。一人だと楽しくないし……」 「それだけ?」 彼女が振り返った。 「それだけ……じゃない」 近づいてきて、真下から見上げる。 「もう少し一緒にいたい」 ドン。 胸を勢いよく小突かれる。 「合格!」
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