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その日は別れ、私は自分の実家へと帰り家族と過ごした。
翌日の夕方になり、駅で彼女と会うため実家を出た。
「……ありがとう。また……」
実家に挨拶し、歩いて駅に向かう。
夜の帳が降り始めるとともに、駅舎の中は人が集まってきていた。
毎年、実家のある街では、お盆期間に花火大会がある。
亡くなられた方へ、故郷を離れた方へ送られる花の輪を、まだ彼女と一緒に見たことがなかった。
人混みの駅舎の中で、私は不安でいっぱいだった。
10年前、待ち合わせの目印となっていた駅の中の大きな水槽が、なくなっていた。
沙織への連絡手段もないため、ひょっとしたら会えないかもしれない。
水槽の変わりに大型の液晶パネルが設置された場所できょろきょろと当たりを見回す。
ふいにつんつんと背中を刺される。
振り返ると沙織がいた。
「お待たせ」
息を大きく吐き、胸をなでおろす。
「はー。よかった」
「よかったって何が?」
「駅水がなくなってたから」
「あー、だいぶ前になくなってたよ」
「知ってるなら教えとってよ」
「だって、駅が変わったの見たいってたし。それに……慌てる太一が見たかったから」
ふふふと、小悪魔のように笑っている。
「それにしても、人多いね」
「年に一度の花火大会だもんな」
「でもよかった。10年前は……見れなかったから」
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