ずっとこの手は離さずに

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微笑みながら、彼女がすうっと寄ってきた。 私と彼女では身長差が15センチくらいあるので、下から見上げられる感じになる。 無言で見上げる彼女。 展開が読めず、圧に負けてのけぞる私の鼻を、伸びてきた白い指がデコピンする。 「痛っ…何すんだよ」 「はは。ほんと変わってないね、太一」 以前と変わらない、にっかとした笑顔が、そこにあった。 沙織は同じ団地の2ブロック離れた先に住んでいて、小中高一緒の幼馴染だった。 物怖じせず、はつらつとして誰とでも仲良くなれる彼女は、小学校のときから男子に混ざってよく遊んでいた。 私には男友達の一人という感覚で、中学生になっても高校生になっても、お互いの家に行って夜遅くまでゲームしたり、一緒にロックバンドのライブに行ってたりしていた。 「二人つきあってるの?」 高校の友達からはよく質問された。そのたびに、 「太一と? ないない」 「沙織と? 命がいくつあってもたりん」 「今なんて言った?」 「やべっ」 なんて会話してったけ。 二人の関係が変わったのは、高校3年になる年の2月、休日のバレンタインデーだった。
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