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いつもと変わらず、私の部屋で二人して課題をやり終えたあと、それぞれ漫画を読みふけっていた。
ただ、その日の沙織は少しだけ心がここにない、落ち着かないような感じがした。
「ねえ、太一」
「うん?」
急に呼びかけられ漫画から沙織の方を向くと、いつになく真剣でいて、でも恥ずかしそうな表情をしていた。
「どうしたん?」
沙織はそばに置いてあった鞄から手のひらサイズの箱を取り出した。
「これ、あげる」
渡されたのは、ちょっとした有名店のチョコレートだった。
そうか、今日はバレンタインデーだったっけ。
「わざわざありがと」
お礼を言って、チョコレートを机に置こうとした。
「太一だけだからね」
「えっ」
沙織は顔を少しそらしながら言う。
「太一にしかあげないんだから」
「そ、そうなんだ。ありがとぅ」
急な雰囲気の変化に飲まれてしまって、思わず声が上ずった。
しばしの沈黙のあと、すうっと沙織が寄ってきてつぶやく。
「あたし、太一のことが好きだから」
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