ずっとこの手は離さずに

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夏休みの課外授業。 帰りに校門を出たあと、ぎこちなく手をつなぐ。 「やっと課外終わったー」 「サイゼ寄って涼んで帰ろっか」 「そうしよ!」 一年前ならぽんぽんぽんと言葉が溢れ出してきたはずだ。 手をつないで身体の距離は近づいたはずなのに、心は、言葉は、遠ざかっていた。 無言でとぼとぼと歩いていると、ふいに沙織が立ち止まった。 「沙織?」 振り返ると、髪で表情が隠れるくらい、うつむいていた。 生ぬるい風が、彼女の髪をぼっと撫でる。 「……太一」 「何?」 「あたしのこと好き?」 「……もちろん」 「じゃあなんで、前みたいに接してくれないの?」 顔を上げた彼女の目からは、大粒の涙がぽつぽつと溢れていた。 「……」 「……」 沈黙が続く。 「ごめんね、私が急に告ったから」 「ちがう、沙織のせいじゃない」 「じゃあなんなの?」 何なんだろう。 うまい言葉が浮かんでこなかった。 当時の私には1日考えても出てこなかっただろう。 目を伏せた彼女は2度うなずく。 「ありがとう。ずっと太一と一緒にいて楽しかったよ。」 泣きながら笑う彼女。 「そんなこと言う……」 言い終わるまえに、つないだ手を離される。 「さよなら」 走り去っていく彼女。 その場にたたずむ私。 追いかければよかったのに、手をとりにいけばよかったのに、私は動けなかった。 あの日後ろ姿を見送った以降、沙織には会わなかった。 卒業式の日も、遠くで友達と笑い合う姿を見ただけで、声をかけることも、声を聞くこともなかった。
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