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「……沙織も帰省なの?」
「そう。さっき帰ってきたところ。でも家族のみんな出かけてるみたいで、外に出てきちゃった。太一は?」
「うちもそう。買い物に出かけてるみたいだから、この辺歩こうと思って。昔と変わってるし」
「角のスーパーなくなってるよ」
「嘘? 団地内に他にないし不便だろうな」
「でもコンビニができてたよ」
「ふうん。なら問題ないか」
「見てく?」
「やることないし、そうしようか」
私たちは並んで歩き出した。
二人でよくお菓子を買いに行っていたスーパーは、その面影をすべて消し去り戸建て住宅の区画となっていた。
二人でドリンクバーで数時間ねばっていたファミレスも、装いをあらたに別の系列に変わっていた。
「けっこう変わってるな」
「ぜんぜん気づかなかったの?」
「いや、最近は正月しか帰ってこなかったし、帰っても周りを歩くことがなくてさ」
団地内をまわっているうちに、公園にたどりつく。
ジャングルジムや滑り台、シーソーなど、子どもたちが遊べるたくさんの遊具があったはずだが、今や小さな滑り台とブランコを残して、すべて撤去されていた。
あそこのベンチは……あった。
楠の下にあるベンチに腰掛ける。
木の葉のおかげで、暑さが和らいでいるように感じる。
「そういえば、去年あった同窓会は来てなかったよね」
隣に腰掛ける沙織に尋ねる。
「うん。1月3日にあったやつよね? 行きたかったんだけど、去年は仕事がめっちゃ忙しくて帰れなかったから。みんな元気だった?」
「うん。10年もたつと、みんな表情も雰囲気も大人になってたね。子連れのやつもいたり、ハゲかかってるのもいたり。ほとんど来てたから、沙織も来るかな……って思ってたよ」
「そっか。卒業してからみんなに会える機会なんてなかったから、無理してでも行けばよかったなー」
足をぷらんぷらんさせながら、夕暮れが近づく遠くの青空を眺める彼女の横顔。
少し細めた瞳は、懐かしさの中に憂いがぽつっと浮かんでいるように見えた。
以前にもこの場所で見た気がする。
別れる数日前だったか。
あのときも、暮れゆく空を見つめていた。
「聞いていい?」
「何?」
空を見つめたまま、彼女が尋ねる。
「彼女いるの?」
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