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唐突すぎて、すぐには返せなかった。
唇を噛み、つばを飲みこむ。
「いないよ」
「……そう」
私は両手を組んで地面を見つめた。木陰がだるそうに揺れている。
「あれから、誰ともつきあってない」
大学生になっても、社会人になっても、あの日の後悔がずっと心の中にひっかかっていた。
サークルでも会社でも、一緒にいるうちに何人かの人が好意を寄せてくれたが、恋愛をする気にはとうになれなかった。
「あたしも」
顔を上げて彼女の顔を見た。
遠い過去を思い返すように空を見つめている。
「太一と別れてから、誰ともつきあってないよ」
ゆっくりと私の方を向く。
その表情に非難の色はなく変わりに照れと親しみを感じたのは、私の錯覚だろうか。
不器用で傷つけてしまうから。
再び辛い思いをしたくないから。
そう思い、あの日以降、寄せてくれる想いを断り続けてきた。
でも、違ったんだ。
私はまだ、沙織のことが__。
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