しとしと雨の降る日には。

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 ずっと続けばいいなと思っていたんだ。隣でずっと一緒に。 「君が七夕さんに誘ってくれたとき、すごい嬉しかったんだよ。一緒に遊びに行こうって言ってくれて」  君となら一緒に遊べる。一人じゃなくて二人で遊べる。そう思ってしまったから。 「私は、あなたが好きです。どうか、だから、付き合ってください」  頭を下げて、両手を差し出す。怖くて目をぎゅっと瞑ってしまっていた。そよ風が頬を撫でて折鶴に吊るされた短冊がゆらゆら動く。微かに風鈴が鳴った。  熱い手が頭に乗る。とろけてしまいそうな感触が、心地よかった。 「もちろん。でも、オレからも言わせて。好きだよ、陽」  頬がニヤけるのを誤魔化しながら顔を上げる。目を開けば、そこには白い靄があるばかり。 「思い出したか?」  冷たい目が見下ろしていた。 「私。そうだ、死んでたんだっけ……」  男の瞳が微かに揺れ動くのがわかった。その目を見ていると、急に淋しさが込み上げてきてしまった。 「今のは、幻? 本当に彼に会えたわけじゃないんだよね」 「ああ、違う。だけど、幻と言えるわけでもない。想は、記憶を呼び起こす言霊。現れた人物は、あんたの知っている彼そのものだ」 「……そっか」  彼の笑顔が蘇ってくる。忘れていたはずの笑顔、声、話し方、一つひとつ思い出すだけで頬が緩んだ。胸に手を当ててみれば、心は少し軽やかに。  陽は立ち上がると、天窓を見上げた。 「ちょうどここにね。短冊があったの。折鶴がとても綺麗で。見たことある? 七夕さん」 「いや。人が多いところは、いろんなものが来る。俺にとっては楽しめるような雰囲気じゃないからな」 「そっか」  自然と笑みが溢れる。一度笑うと堪えきれなくなってお腹を抱えて笑ってしまった。何がそんなに面白いのか自分でもわからないが、ただただお腹がくすぐったい。涙が出るまで笑うと、弾んだ息を整えて、溜まった息を吐き出した。 「ごめん。なんかおかしくて。でも、本当に死んじゃったんだなって今やっと納得できた気がする。呪縛が解かれたってこういう感じなのかな」 「ああ。体験したわけじゃないが、つっかえていたものが取れるような感じらしい。絡み合ったものが(ほど)けるというやつもいた。どちらにしても、留まり続ける理由がーー」  突然、男の目の色が変わった。 
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